不動産トピックス

ホテル運営会社次の一手を探る

2020.05.25 12:26

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国内外の渡航制限等により、訪日外国人はもちろん、国内の観光客や出張客も激減。その影響は、民泊新法以降劇的に増加した民泊施設を抜き差しならない状況に追い込んでいる。「継続か?撤退か?」オーナーや運営会社は、早急な判断を迫られている。こうした中、新たな支援サービスが誕生している。

「継続か?」「撤退か?」民泊施設サポートビジネス続々
「生活110番」ベースに「廃業」スピード支援
 「撤退」を支援するサービスを開始したのが、暮らしのお困りごとを解決する総合プラットフォーム「生活110番」を展開するシェアリングテクノロジー(愛知県名古屋市)だ。同社は、新型コロナウイルス感染拡大による宿泊オーナーや運営会社向けのスピード撤退代行サービス「民泊撤退代行110番」の提供を開始した。
 これは、家具や家電の撤去など撤退時に関連する様々な業務を、全国の加盟店ネットワークを活かし一括で行うもの。
 撤去作業の時間と手間がかけられない場合は、電話1本で依頼が可能で立ち合いの必要なく撤去作業を済ませることができる。撤退作業は原則1日。
 料金は、部屋の広さと退去日から換算する。誰でもでも計算しやすい料金のため、容易に申し込みをすることが可能だ。
 同社は自社コールセンタースタッフが、利用客の相談を24時間365日、日本全国で受け付けているため、平日は忙しく、夜遅くでないと時間がない人でも利用できる。
 2020年に開催を予定していた東京オリンピック・パラリンピックに向け、インバウンド需要の拡大により急増した民泊施設は、2018年6月の民泊宿泊事業法施行日から2年弱で11倍以上となり、現在では2万5000件以上に増加した。
 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、民泊施設のオーナーや運営会社は、民泊施設の撤退を余儀なくされている。
 今回のサービスはこうした現状を踏まえて自社の強みを生かし、民泊施設のオーナーや運営会社の「勇気ある撤退」をサポートしていこうというもの。
 同社は、全国4100社以上の加盟店ネットワークを活かし、暮らしのお困りごとを抱えた全国のユーザーにサービス提供する総合プラットフォーム「生活110番」を運営している。これは住宅リフォームから修繕、家事代行に至るまで、日々の生活をサポートするマッチングサイト運営のこと。
 同社のサイトには現在、140以上のジャンルにわたり、全国3700社以上が加盟店契約を締結している。サイトに訪れた利用客と、適切な加盟店をマッチングさせる仕組みだ。
 コールセンターで、ジャンル・場所・施工希望日などを聞き、適切な加盟店を紹介する。加盟店と利用客との間で契約が成立した時点で同社が加盟店から手数料を徴収する成功報酬型だ。手数料率は公開していないが、ジャンルによって異なる。
 同社は2006年設立。2009年にインターネット回線販売、2012年にはウェブによる「暮らしのお困りごと」事業をスタート。2017年には東証マザーズと名証セントレックスに上場を果たした。
 一方、「継続」をサポートしようというのが、会議室のシェアリング事業「スペイシー」を展開するスペイシー(東京都千代田区)である。同社は、大崎電気工業(東京都品川区)と連携し、民泊事業者向けに「時貸しワークスペース転用プロジェクト」をスタートさせる。
   大崎電気工業が開発したスマートロック「OPELO」を活用する。これにより民泊物件を時間貸しすることが可能となり、スペイシーの登録者28万人に向けリモートオフィスとして提供することが可能となるなど、空き部屋を抱える事業者にとって新たな活用が見込めるようになる。もちろん、旅行者数が回復した場合には、同一のスマートロックをつけたまま民泊物件として運用する対応も可能だ。 新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年3月の月間訪日外国人は90%減となった。これにより、民泊事業者の休廃業も増加した。一部の民泊物件は用途転換を行い一般住宅としての賃貸へと移行しているが、物件所有者でない場合は用途転換が容易に行うことはできない。そのため、来年のオリンピック需要やインバウンドの需要回復まで様々な手を打ち運営維持していかなくてはならない。
スマートロック設置 ビジネスマン向けに
 一方、オフィスへの通勤が縮小し、自宅でのリモートワークは急激に増加しているため、自宅では同居家族等の存在や生活空間のため仕事を行うのに十分な環境と言えないなどの課題がある。自宅外の安全な場所で、通勤のリスクを避けて仕事を行える場所のサードプレイスが求められている。 
 今後も在宅勤務を推進する動きが加速していくことが考えられることから、一般企業や個人事業者向けに、住居の近くの登録物件を提供できるよう物件の拡充を目指していく。ビジネスパーソンにとって利便性が高く安全な働くためのサードプレイスの確保と、民泊事業者の新たな収益源の確保を目指していく。
   大崎電気が提供するスマートロック「OPELO」は、既存の鍵に後付けで簡単に設置できるスマートロック。ネットワークを利用しないため、ランニングコストもかからず通信トラブルリスクもない。
 ワンタイムパスワードを毎日自動発行することができるため、鍵の受け渡しや管理業務から解放され開錠の遠隔化・自動化が可能です。パスワード発行履歴が残るので、いつ・誰がどの部屋のパスワードを発行したかが分かり、セキュリティ性も高い、といった特徴がある。

アドレス ホテル・旅館を「住まい」に
 定額制の全国住み放題・多拠点コリビングサービス「ADDress(アドレス)」を展開しているアドレス(東京都千代田区)は、「Withコロナ/Afterコロナ」社会の新しい住まい提供に向けて、ホテル・旅館・ゲストハウス等の宿泊施設との連携を強化する。
 住まいと働き方をシフトしたいリモートワーカーを主な利用対象者とする。連携宿泊施設第1弾として「変なホテル東京 赤坂」(東京都港区)や、「高知サンライズホテル」(高知県高知市)など全国10拠点を近日オープン予定として準備を進めるとともに、新規の宿泊施設も追加募集する。
 対象施設はホテル・旅館・民宿・ゲストハウス。契約期間は最短3カ月からだが、長期契約も可能。契約形態は、賃貸借契約または定期施設・宿泊利用契約。
 新型コロナウイルス禍による緊急事態宣言が今後、解除されたとしても、コロナ終息の長期化を指摘する専門家の声もある。コロナの影響は、人々の働き方にも変化を促しており、外出自粛期間が継続する中で企業のリモートワーク実施が広がり、必ずしもオフィス近郊に住まなくても働ける場が確保され始めている。
 野村総合研究所の調査では、コロナの影響により企業のテレワーク実施者は全体で26%増加して40%。特に従業員数30人~1000人未満の中小企業では、この傾向が顕著であるとの結果が発表された。
 同社はこうした社会の動きを捉え、人口が密集する都心から離れて暮らすニーズは一層高まり、同時に個人における「住まいの定義」も見直される、と考えている。こうしたことから新たな市場を創出するため今回の取り組みを開始することとなったもの。
 同社は会員に定額制で全国の家に自由に住める多拠点コリビング(co―living)サービスを提供している。 
 各拠点は個室を確保しつつも、シェアハウスのようにリビングやキッチンなどを共有。空き家や別荘を活用することで、コストを抑えながらリノベーションによる快適な空間を提供する。
 施設をハブとした会員同士や地域住民との交流機会も提供し、会員はさまざまな地域で新たなコミュニティに参加することが可能だ。少子高齢化の人口減少社会の中、移住ではなく都心部と地方が人口をシェアリングする多拠点居住のサービスを目指している。
 同社では2019年10月よりJR東日本スタートアップ(東京都新宿区)と資本業務提携を締結し、JR東日本ホテルズが運営する群馬県みなかみ町の「ホテルファミリーオ みなかみ」を2020年1月より「ADDressみなかみ邸」として運用している。同拠点の他、富良野(北海道)、南相馬(福島県)、小布施(長野県)、美馬(徳島県)、唐津(佐賀県)、佐伯(大分県)、多良木(熊本県)などの宿泊施設とも連携している。

海外超富裕層とマッチング事業開始
 グローバル富裕層向けのライフスタイルサービスを提供しているGOYOH(東京都新宿区)と、不動産サービスを機関投資家などの提供しているASTERISK(東京都千代田区)の両社は、コロナウィルス流行の影響を受ける国内の旅館や宿泊施設の存続に向けた取り組みとして、資本や運営面での支援に関心をもつ超富裕層との連携による、包括的な支援の取り組みをスタートさせた。
 コロナ禍による宿泊事業者への多大な影響から、伝統ある老舗旅館やリゾート施設、都市部ホテルなどの多くの宿泊事業者にとって困難な時期となっている。
 一方、世界に20万人以上存在するといわれる資産約30億円以上の富を有する超富裕層は、昨今のコロナ禍においても経済的な影響はありながらも、自己の経済的な成功の追求よりも、他者や社会・文化を支援するといった取り組みを追求するステージにいる層が少なくないという。なかでも日本の文化や伝統・産業・観光・投資について関心が高い層がGOYOHのカスタマー層になる。 
 この両者を繋ぎ合わせ、GOYOHの目指す日本における「ヒト」、「コト」、「モノ」とその持続可能性を追求する取り組みとして、アスタリスクと連携して国内の旅館・ホテル・リゾートの存続支援へ資本・運営支援への誘致を行っていくもの。
 両社の主要カスタマーグループであるグローバルな超富裕層とのコミュニケーション・ネットワークを最大限に活用する。

森トラスト 10施設で営業再開
 森トラスト・ホテルズ&リゾーツ(東京都品川区)では5月14日に新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が39県で解除されたことに伴い、臨時休業中のホテル・ゴルフ場19施設のうち、当該地域に立地する10施設を5月30日より営業再開することとなった。
 再開する施設は「リゾートホテル ラフォーレ那須」、「富士マリオットホテル山中湖」、「軽井沢マリオットホテル」、「コートヤード・バイ・マリオット 白馬」など。
 再開にあたっては、利用者の安全を最優先に「三密回避」「徹底した衛生管理」「従業員の健康管理」に取り組み、地域経済との連携をはかりながら、各ホテルの施設の特長を生かした営業を展開していく予定だ。
 なお、東京、大阪の都心部に位置する「コートヤード・バイ・マリオット 東京ステーション」、「コートヤード・バイ・マリオット 新大阪ステーション」の2施設は、引き続き営業を継続する。

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