不動産トピックス

クローズアップ ビジネス支援編

2019.04.15 12:08

 ただ「貸す」だけでなく、テナントのビジネスに付加価値をもたらせる貸し方を意識したい。人口減少が長期トレンドになるなかで、大手デベロッパー中長期の戦略に不安を抱く。そのなかで参考にしたいのは先行者の知見。ビルでもオフィスだけでなく、飲食ビルでも可能性は十分にある。

キッチンと時間をシェフ同士でシェアリング 飲食ビルが抱える課題のソリューションにも
 飲食店の新規開業は年間1万6000店舗。このうち1年で3割、3年で7割の店舗が閉店する。飲食店をテナントとして入居させるビルオーナーにとって、この飲食店業界の状況はビル経営面で悩みのタネとなっている。
 この課題に対して新しいソリューションが誕生しようとしている。
 SENTOEN(東京都渋谷区)は5月下旬をめどにシェア型クラウドキッチン「Kitcehen BASE中目黒」をオープンする。
 「シェア型クラウドキッチン」とはどのようなものか。同社が賃借した中目黒の物件では20坪のフロアに4つのキッチンを造作。飲食店事業者がそれをSENTOENから月単位で借りる。
テナントとなる飲食店事業者は日中(9時~22時30分)と夜間(23時~翌朝8時30分)で入れ替わる。場所だけでなく時間もシェアリングする場。代表取締役・CEOの山口大介氏にこの理由を聞くと「飲食店事業者のニーズに応えた制度設計です」と言い、次のように続ける。
 「『Kitchen BASE』に入居する飲食店事業者はデリバリー注文商品を調理していきます。日中の時間帯に借りていただくのはこれからデリバリー事業を始めようと考えている、あるいは飲食店を起業しようと考えている方などが対象となっていきます。飲食店を起業するための初期費用は1500万円以上かかり、初期コストで諦めることもあります。この場が事前のマーケティングの場になればと考えています。また夜間は主に法人向けに100食以上の大量注文を受け付けているデリバリー事業者が主な対象となります。注文の食事を届けるのは朝から昼が多く、調理は夜間に行っています。このような飲食店のバックヤードの機能も提供していきます」
 場所貸しだけではなく、ビジネス支援も行っていく。SENTOENではデリバリー登録や運用のサポートや、売上などのデータを分析して改善提案を行っていく。加えて入居するシェフ同士のコミュニティ形成も後押しする。
 実はこのような施設はデリバリーが発達している欧米や中国などでは珍しくない。たとえば自動車配者サイト「Uber(ウーバー)」元CEOのトラビス・カラニック氏もシェア型クラウドキッチン事業を興している。ただ日本国内では珍しく、山口氏は「調べた限りでは同様のビジネスを行っている事業者は見当たらなかった」と話す。
 そしてこのビジネス、不動産経営にも十分に寄与することができそうだ。レストランなど食事が可能な飲食店舗と比較して、テーブルや椅子などを置く必要がないために、余すことなく収益化することができる。「『Kitchen BASE』は1階に構える必要はなく、地下や空中階でも十分にビジネスが可能なモデルです。中目黒の物件も7カ月間空室となっていたところを賃借しました。飲食テナントは『回転が早い』という常識を覆せるのではないでしょうか」。
 既に次の案件に向けても動く。中目黒は日中・夜間合わせて8事業者の募集だったのに対し、「54の事業者から応募があった」という人気ぶり。ドミナント戦略を展開し、拡大していく方針だ。
 「今後の拠点ではシェフ同士はもちろん、シェフとユーザーが交流できるスペースも設けていきたいと考えています。そのため30坪以上の物件を中心にして探していきたいと考えています。オフィスと異なり住宅街でもビジネスとして成り立つので、そのようなエリアでの空室対策としても私たちの事業は貢献することができると思います」
 飲食業界と不動産業界の双方にとって「妙味」のある事業に注目したいところだ。

いちごラウンジ第2弾完成 大阪の「いちご内本町ビル」に
 いちごオフィスリート投資法人(東京都千代田区)が2018年9月に取得した「いちご内本町ビル」で、「いちごラウンジ」が完成した。
 「いちごラウンジ」は昨年、新しいテナント向けサービスとして「いちご東池袋ビル」に快適性の高い共用ラウンジとして導入。早期のリースアップにつながるなど、高い反響を得ていた。
 今回、その第2弾となる「いちご内本町ビル」では取得以前よりリフレッシュルームや会議室として使用されていたフロア(約96坪)に「いちごラウンジ」(約43坪)を設置し、従前の共用スペースを集約した。ラウンジのコンセプトは「LIBRARY LOUNGE」。コミュニケーション・スペースと専用の会議室を備えたデザイン性の高いワンランク上の空間を創出することにより、通常のオフィスにはない快適性と付加価値を提供する。
 さらに共用スペースの集約によって生じたスペース(約52坪)はデザイン性の高いオフィス区画として整備し、新たな収益の創出を図っていく予定だ。

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