不動産トピックス

第19回不動産ソリューションフェアセミナー・パネルディスカッション再現

2017.10.23 12:13

外国人投資家パネルディスカッション「世界の変化が日本不動産に与える影響」

今後はフレキシブルなワークスペースを備えたオフィスが増加
日本のリテールはアメリカのような惨憺たる状況にはならないと予測

 毎年多くの聴講者が訪れ盛り上がる外国人投資家のパネルディスカッション。今年も昨年と同様に「世界の変化が日本不動産に与える影響」をテーマに、登壇者にはざっくばらんに語ってもらった。目まぐるしく変化する世界の動きと、その動きに対応しようとする日本について、厳しい意見も飛び出した。

オリンピックまでは順調、その後の対策が必要
J.マイケル・オーエン氏(以下、オーエン氏) 私が先日、10日間ほど海外に出ている間に安倍総理が衆院解散と選挙を告示し、小池都知事が新党「希望の党」を立ち上げ、民進党の新代表には前原誠司氏が就任しました。目まぐるしく変化する現在の日本の政治と次の衆議院選挙が、2020年開催の東京オリンピックまでの不動産市況にどのような影響を与えるか、早速2人に伺ってみたいと思います。
フレッド・ウルマ氏(以下、ウルマ氏) ちょうど私も同じ時期にドイツにいまして、日本の政治が大きく変動している様子を国外から眺めていました。ドイツでは連邦議員選挙が行われていたため、皆自宅のテレビなどで選挙の行く末に注目しており、投票率は75・1%。超右翼と呼ばれている難民の受け入れ反対を重要政策に掲げる政党が第3党に上がってきた、という大きな動きが見られたにもかかわらず、日本国内のニュースではあまり大きく扱っておりません。それはメディアが重要なニュースよりも話題性の大きいニュースを中心に扱い、視聴率を気にしていること。安倍総理や小池都知事などの掲げる政策が今後の日本にどのような影響を与えるかもっと世間に伝える必要がメディアにはあります。が、22日の選挙結果が日本国内にさほど大きな変化を与えないとも感じております。また今回の選挙結果が将来の不動産市況に影響を与えるかどうかは「日銀を動かせるかどうか」の1点のみと感じており、あまり大きな変化は見られないでしょう。
スティーブ・バス氏(以下、バス氏) ここ数年の海外で開催されたオリンピック後の経済状況も踏まえて話しますと、オリンピック開催までの日本の不動産市況は順調だと思います。J―REIT株価指数を見ると24年末にピークに達し、その後横ばいの状態を維持。海外の投資家からは現在も積極的に日本の不動産に投資する様子が伺えます。では、オリンピック後はどうか。北京オリンピックでは開催後に経済が停滞しましたし、他の国々でも似たようなケースが見られました。東京オリンピック後も引き続き、日本経済が好調を維持できるイメージはあまり感じられません。ですが開催までは順調に行くと感じます。
オーエン氏 現在の日本の不動産市況が好調なキッカケとして「インバウンド需要の増加」も理由のひとつと考えられますが、この状況が何時まで続くのか。また壊れやすい状況なのか。ここまで発展した要因は何かといった視点で意見を述べて下さい。
バス氏 日本に対する海外からのニーズは非常に高いです。理由としては安心・安全性や物事に対する透明性、法律がしっかり整備されている点やマーケットの規模の大きさです。ですがヨーロッパや他のアジアの国々と比較し、成長性といった点ではあまり期待するほどの内容とは感じません。また訪日外国人の割合で見ると圧倒的に隣国の中国人・韓国人が多く、リスク分散の観点や多様性という視点で見るともう少しアメリカやヨーロッパ、オーストラリアといった他の国々からの観光客が増えた方が良いと思います。
ウルマ氏 過去に安倍総理は「2020年までに訪日観光客を2000万人まで増やす」と発表しましたが、既に今年8月で2000万人を突破しております。私の予想では今年末で20万人、オリンピック前に00万人を突破するでしょう。既に東京や京都の観光に飽きたと感じている訪日観光客は出てきていますが、まだまだ地方には魅力的な観光地が多く、バックパッカーなどが立ち寄れる環境を整えれば需要も引き続きあると思います。Airbnbが古民家などを利用すれば、「囲炉裏を囲って郷土料理を食べる」といった体験も宣伝できるでしょう。また世界文化遺産として和食が注目されており、白人の若年層からはラーメンやかつ丼などが人気。その様な背景から、日本へ旅行に来れば食べ歩きを行う外国人も増えていくことが考えられます。個人的な意見ですが、東京にオフィスを集中させて地方は観光ビジネスに注力すれば、世界で一番潤う国になるのではないでしょうか。それだけ日本には魅力的な観光地や施設が沢山あると思います。
オーエン氏 日本はリテールについても注目です。現在アメリカはネットショッピングの発達が影響し、ショッピングセンターで空室が目立っています。一方日本はネットショッピングが浸透してきていますが、そのような問題までには至っておりません。海外の投資家はその点をどう見ていますか。
バス氏 郊外型のリテールにはメリットとデメリットがあり、メリットは規模が大きい。デメリットは賃貸借契約が厳しく、利用者である人口が減少している点です。特に東京・大阪といった都市部に人口が集中しており、都市型のリテールには今後も注目ですが、郊外型のリテールはリスクが高くなっているとの感覚を抱きます。また都市型のリテールもアマゾンなどのネットショッピングの発達・浸透がありますので、何かしらの進化が必要と思います。モノを買うよりも経験を買うといった内容での進化があればと思います。
ウルマ氏 私は先日アメリカでゴーストタウン化した、テナントが大量に抜けたショッピングセンターを見てきました。日本で言う閑散とした駅前の商店街に近い状況です。アメリカのショッピングセンターは賃料に共用部の電気料金やメンテナンス費を加えて一括で支払っているケースがありますが、少なくなったテナントで電気料金やメンテナンス費を負担しなければならず、「エスカレーターなどを停めて欲しい」といった声が寄せられる始末です。一方日本はどんなにネットショッピングが普及しても、直接店にモノを買いに行きます。特に食材を買いに行く人の多くはネットショッピングを使用せず、もしネットショッピングを使用して食材を買うことになれば「トマトが小さい」とか「食材が傷んでいる」といったクレームに発展しかねない。こうした背景から、日本のリテールはアメリカのような惨憺たる状況にならないと思います。
オーエン氏 ではオフィスに対して海外の投資家はどの様に見ているのでしょうか。
ウルマ氏 不動産に投資しているファンドは「投資先の不動産収益が成長する可能性がある」ことを見込んで行っております。例えば、賃料が上がっていない、コストは多少下げられたかもしれませんが、購入時はキャップレートが3・6%であったが3・2%で売却し、借りていたローンの金利がゼロに等しかったために結果的に儲かった人は大勢いると思います。ですが結果オーライは金融投資としては良くなく、そこを理屈立てて投資できなければいけません。また都内5区で新規床の供給も続きます。となればSクラスのオフィスビルから埋まり築年数の経過したCクラスのオフィスビルは解体されて、違う用途の物件になるかもしれません。そのような動きや変化が今後一層増加すると思います。またアメリカで人気のウィーワークは、私は日本で定着すると思っておりません。1人でウィーワークを借りるとなると非常に高額であると感じます。オフィスを使用する権利がなくてロビーを使用する権利だけなのに一カ月20万円。スタートアップの企業が一カ月20万円を払える負担力はまずないでしょう。
バス氏 都内の空室率が現在非常に低い状況なのに、賃料の上昇は今後難しいと思います。またウィーワークのようなフレキシブルなワークスペースが今後は更に広まっていくでしょう。結果、これまでのようなオフィスビルは減少し、ビルオーナーにとってはその点の対応も必要と思います。オフィスビルの大半がフレキシブルなワークスペースを備えたオフィスに替わっていくことは間違いないと思います。
オーエン氏 海外の富裕層から見ると今後はオフィスビルならオフィスビル、レジデンスならレジデンスといったように用途を同じままにはしないと思います。IT化が進んだ現代で用途をその都度変化させていくことが、今後ビルオーナーに必要と思います。

PAGE TOPへ