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ESGは不動産価格や賃料に好影響を与えるか 調査から見えてきた「将来への期待感」
2025.12.22 10:57
大和不動産鑑定(東京都千代田区・大阪市西区)は2025年9月「不動産ESGと不動産価格」に関するアンケート結果を公表した。環境施策(E)や直近で取り組みが増す社会的インパクト(S)の創出と、不動産価格や利回りなどの価値向上にどう寄与するかを調査したもの。現状効果が見えにくいものの、「将来への期待感」の強さは鮮明となっている。
環境認証6割が10年後に 賃料や稼働率で効果を予想
同社は2024年まで「ESG配慮に関するアンケート」という名称で同種の調査を実施してきた。今回の調査ではより不動産鑑定会社として調査意義を発揮できるよう設問項目をリニューアル。社会的インパクト創出に関する設問も新たに追加した。調査は2025年4月17日~5月31日まで行い、不動産投資法人、デベロッパー、金融機関などの35社の担当者から回答を得た。
環境関連では4項目の設問を実施した。環境認証などの取得が物件の価値向上につながっているかが注目されたが、現在の「賃料収入」と「稼働率」への好影響は限定的だった。現在だけを見ると、賃料収入が「認証を取得していない物件」と比べて「3~5%高い」としたのは5・4%、「1~2%高い」は8・1%にとどまり、残りの86・5%は「影響なし」と回答。「稼働率」についても「3~5%高い」は5・4%、「1~2%高い」は10・8%、「影響なし」は83・8%で、「賃料収入」とほぼ同様の結果となった。
このアンケートでは逆の質問も行っている。それが「環境認証を取得していない物件における現在及び将来の『賃料収入』・『稼働率』の推移について」というものだ。「現在」時点で「賃料収入」では認証取得物件と比較して「1~2%低い」と答えたのが10・8%となり、残りの89・2%は「影響なし」と回答。稼働率では5・4%が「1~2%低い」と答えたのみで、94・6%が「影響なし」とした。認証取得が現状、コストに対してパフォーマンスが見えない状況であることが明確になっている。
キャップレート(不動産価格に対する還元利回り)の観点からの質問でもこうした傾向に大きな差は出なかった。ただこれらの回答はいずれも、5年後、10年後と将来になるにつれて大きく変化している。
業界全体は積極姿勢だが立地などで意識の差も
今回のアンケートを行った大和不動産鑑定は結果をどのように見ているのだろうか。
業務推進部の出口和也副部長は「業界全体としてサステナビリティ、ESGに対しては積極的だ。特にJリートの保有物件をみると、CASBEEなどの環境認証を取得することはスタンダードになっている。一方で、そういった環境への取り組みが不動産の価値にどう影響しているのはまだ測りきれていないのではないか」と話す。アセットマネジメント会社のなかには独自ルールで認証取得によってキャップレートを「10bp下げる」などの差を持たせることもあるが、鑑定評価においては「環境への取り組みはエネルギー使用量実績などに現れてくるため、現時点においては収支実績に基づく査定という対応に留まっており、キャップレートに差をつけることはしていない」という。
大阪本社鑑定部の岡田雅課長は立地や規模感による意識の違いがあることを指摘する。「都心の新築・大型物件では環境認証を取得することが当然という認識が広がっているが、地方や中小規模の物件ではその水準に一歩遅れている印象だ」。コストに対して、パフォーマンスとなるのは賃料や稼働率の向上。都市部の新築・大型物件の場合には、対象となるテナントが大手企業や外資系企業であることも多く、環境認証の取得/未取得が入居を左右するケースも多く、所有者側にとって動機付けにもなっている。
また岡田氏は「将来の見通しも影響しているのでは」と話す。同社の調査結果の「まとめ」において、「環境認証の取得や社会的インパクトに配慮しないまたは配慮する予定がないとの回答も5件あった」と報告している。「見通しが楽観的で取り組まなくても将来にわたって競争力を維持できるという考えがあるために、環境認証の取得や社会的インパクトへの配慮の予定がないという回答が出てきたのではないか」と推測する。
こうした意識の差による取り組みの違いは、不動産業をメインとしない事業法人にも現れている。三井薫CASBEE審査室長は「環境認証取得のメリットや国内外の動向についてご説明するものの、社内稟議が下りなかったり、そもそも経営陣が中核の事業ではない不動産で投資を伴う取り組みを行うことへの意欲が低いケースもある」と明かした。
環境、ならびに社会的インパクトのいずれにおいても、課題はそれらに取り組むことがどう不動産の収益にポジティブな影響をもたらしているかを明確にできるか、ということになりそうだ。制度設計をアップデートしていくことも、取り組みを促し加速させていく上で必要不可欠となっている。



