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既存ビルをグリーンビルディング化 LEEDやWHSR取得の「蔵前ウグイスビル」

2023.04.17 14:34

築66年のテナントビル LEED取得目的の改修
 環境負荷の低減や入居者の健康状態も視野に入れた、適正な機能を備えたグリーンビルディングの認識が広まりつつある。代表的な環境評価システム「LEED」や「WELL Health―safety Rating(以下WHSR)」の認証を取得したビルに「蔵前ウグイスビル」がある。
 都営地下鉄「蔵前」駅徒歩4分、台東区蔵前4丁目の都道462号線に面した築66年のテナントビル。元は事務所・倉庫であったが、2017年に賃貸マンションへの建替えを計画。しかし、およそ2年後に長期保有を目的としたテナントビルへの全面リノベーションに変更。リノベーションは既存ビルの再生を得意とするビルmo(東京都中央区)がプロデュースした。
 ビルmoは三菱地所レジデンスが展開する「Reビル事業」において施工に携わり、都内を中心にビル再生に携わってきた。同プロジェクトでは内外装の既存デザインは残しつつ、小面積の区画を生かしたテナントビルへとリノベーション。20年5月に完了し、同年には満室稼働。現在までほぼテナントの入れ替えはなく、入居希望の問合せが続く人気ビルへ再生された。
 昨年同ビルに入居者として関わるビルmoがビルの更なるイノベーションとして「LEED・WHSR」の認証取得をオーナーに働きかけ取組みがスタート。22年8月上旬から12月末頃まで、認証取得の取り組みは続いた。まずは入居者に、取得に向けた工事内容や取得後の建物使用ルールを説明。理解や同意を得られたら、次に認証取得に向けた改修工事を開始。LEEDO+M必須項目「Indoor Environmental Quality(室内空気質の改善)」が目的の換気設備工事により、各部屋に換気扇を新設。廊下に面する壁に給気口や排気口を設置した。更に廊下中央の天井に、2本の換気ダクトを設置。換気ダクトから、各部屋へ清潔な空気が供給される。
 一方ビルの電気は、低圧電力のため工事前の時点で許容量ギリギリであった。更なる電気の引き込み工事も難しい状況であったため、新設した換気扇の電力を補うための太陽光パネルを屋上へ設置。日照時に発電した電気は、3階に設置の蓄電池へ蓄電。換気扇の稼働時間も9~20時までのビル営業時間帯に定めることで、電気容量の課題もクリアした。これら工期は約1カ月半。テナントが入居した状態で、かつ騒音の出る工事内容は時間を決めながら行われた。
 代表取締役の吉田賀織氏は「テナントのいない空室であれば、工期が短縮され、当然費用もその分安く抑えられます。空調設備の更新などは各自治体でも補助金・助成金制度を設けているケースが見られます。前向きにグリーンビルディング化を検討しているがコスト面で不安を抱える場合、活用することを勧めます」とのこと。

米国の環境認証制度 外資から選ばれるビル
 工事が終了すれば審査資料の作成も必要となる。空気質の測定や建物設備概要の資料作成、運営ルールの策定、エネルギー使用量の把握などが審査対象だ。特に過去一年間のエネルギー使用量の把握は、電気・ガス・水道の使用量に加えて、年間の廃棄物量も必要。資料集めには最低1~2カ月は掛かると見てよい。「蔵前ウグイスビル」ではエネルギーデータの収集、書類作成をビルmoが対応。資料作成は初めての人が行う場合に、多大な苦労を要する。
 LEEDは米国で開発された環境認証制度。米国の関係者とのやり取りが多くなるため、ある程度知識や過去に経験のある人が必要になる。ビルmoであれば対応可能。同ケースの様に、既存ビルでグリーンビルディング化を検討する際は同社もサポートすることができる。
 吉田氏は「当社は『既存ビルのグリーンビルディング化支援事業』サービスを展開しています。『LEED・WHSR』の導入を推進し、現存する収益不動産の資産価値を高め、持続可能なオフィスビルとすることにより数あるオフィスの中から選ばれる不動産へと転換することを支援しています。今回の『蔵前ウグイスビル』は事業モデルとなる物件の1棟で、築年数が66年経過していても対応できることが証明できました。保有ビルで『LEED・WHSR』認証を検討している場合は当社も協力します」とのこと。
 「蔵前は小規模オフィスやものづくり等のクラフト系企業のオフィス・店舗需要がある地域です。これら地域に出店する企業やテナントは、既存ビルのレトロな感じや雰囲気等を好むケースもあり、リノベーションは魅力的なビルの再生方法と思います。ビルの維持管理と共に、リノベーションで重要なことは『清潔な空間であること』です。古くても清潔感のある内容に仕上げることで、入居者も今後清潔に使用して頂くことに繋がります。また既存ビルでのグリーンビルディング化は建物の性能よりも運営面において、環境に配慮した取り組み(省エネルギー)をしているかが問われます。入居者・使用者の理解が重要です。グリーンビルディング化の勘所は、テナントへの事前説明とその後の協力姿勢と思います。認証のメリットは、外資系企業などから選ばれるオフィスであること。売却時の有力なビルの付加価値として生かせるでしょう」(吉田氏)

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