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森記念財団 都市戦略研究所 「世界の都市総合力ランキング」発表 コロナ政策の差が結果に反映

2023.01.02 14:53

 森記念財団 都市戦略研究所(東京都港区)が2008年より調査・発表している「世界の都市総合力ランキング」。2022年版の結果がまとまり、昨年12月14日にメディア向けの発表会も行われた。

 世界の都市総合力ランキングは、世界の主要48都市を評価し順位付けした世界初で日本発のランキング。国際的な都市間競争において、人や企業を惹きつける「磁力」は、その都市が有する総合的な力によって生み出されるという考えに基づき実施。同研究所が2008年に初めてランキングを発表して以来、都市を取り巻く状況の変化に対応するため、毎年更新してきた。現在では、代表的な都市評価指標のひとつとして、様々な場所で政策・ビジネス戦略の参考資料に用いられている。ちなみに分野別でランキング化しており、経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの全6分野がある。
 新型コロナウイルス感染症の拡大から約3年となる同調査では、各都市におけるコロナ政策の違いが明確に調査結果へ表れた。まずトップ5の都市は、1位ロンドン、2位ニューヨーク、3位東京、4位パリ、5位シンガポールの順に。順位の変動はないがコロナ対応の違いが強く影響し、スコアは大きく変動。特に外国人観光客の受け入れ再開状況や航空便の運航本数における回復度合いが、「文化・交流」と「交通・アクセス」のスコアに明確に表れた。例えば、1位ロンドンと3位東京、5位シンガポール、更に23位の香港は、コロナ禍前までは文化・交流の外国人訪問者数、交通・アクセスにおける国内・国際線旅客数などが強みであった。国際都市としても知られる4都市だが、国際渡航規制や慎重な水際対策が影響し全体的にスコアを下げる結果になった。
 一方11位のドバイは、観光客受け入れ早期再開により過去最高順位を獲得。コロナ禍で最も早く観光客の受け入れを再開させた都市の1つで、21年には国際博覧会を開催した。文化・交流分野では東京を抜き4位に上昇。「観光地の充実度」や「買物の魅力」、「食事の魅力」でスコアを伸ばすなど、人の往来を促進しただけでなく、都市が有する文化的魅力がより高く評価された。また2位のニューヨークと10位の上海は、国際航空便の運航が19年時点の半分も回復していないものの、国内便の回復が他の都市より早かったことで、交通・アクセスにおいて高い順位を維持。ニューヨークは、昨年悪化した就業環境に関わる指標「完全失業率の低さ」や「働き方の柔軟性」が改善。居住の順位が上昇した。
 居住者の暮らしやすさを向上させた、4位のパリと9位のメルボルンも興味深い。両都市の共通点は、どちらも「外国人訪問者数」のスコア低下に苦しむ一方で、居住や環境の指標で挽回したこと。「物価水準の低さ」や「1人あたりの総労働時間の短さ」など、生活コストや就業環境面の評価が高まったほか、メルボルンは「空気のきれいさ」が2位まで上昇。都市環境の質が高まったことがわかった。

東京のスコアは大幅下落 外国人訪問で回復に期待
 さて東京はどうか。世界主要都市の中では感染者数を比較的抑えられたものの、総合ランキングのスコアが大幅下落。ランキング順位は3位を維持したものの、4位のパリのスコアが伸長。スコア差は僅差にまで詰められることに。スコア変動を分野別でみると、全6分野のうち4分野の順位が下落。下落したのは経済、文化・交流、居住、交通・アクセスの4つ。環境のみ順位が上昇した。2018年と今年のスコアを比較した場合、東京の強み「従業者数」や「ホテル客室数」は直近5年間で着実にスコアを伸ばしている。一方「世界トップ500企業」や「研究者数」、「研究開発費」等は5年間でスコアが下落。また東京の弱みであったリサイクル率等が改善する一方で、「緑地の充実度」等は更にスコアが下落。直近5年間で偏差値を落としている指標数の方が多いことがわかった。
 偏差値下落にはコロナによる影響も大きいことがある。今後、コロナ禍が収束に向かえば「外国人訪問者数」、訪問者数増減の影響を受けやすい「買物の魅力」や「食事の魅力」などは大幅に回復する可能性が高い。更に2030年までに控える複数の都市再開発等を通じて、「飲食店舗の多さ」や「緑地の充実度」、「外国人居住者数」等のスコアも伸長する可能性が高い。都市再開発に加えて「法人税」や「優秀な人材確保の容易性」などに対する政策を並行して推進することができれば、コロナ禍の収束とともに、東京の都市力向上に向けた新たなスタートを切れると同研究所は推測する。

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