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大手と差別化 地元特化のシェア事業 印刷工場兼倉庫をシェアオフィスに

2022.08.29 11:13

 ここ数年でシェアオフィス等のサービスオフィス事業が、地方都市における街の活性化と、未活用物件に対しての付加価値形成の手段に選ばれている。運送業等を展開する仙台の丸山運送は、宮城県内で完結するビジネス環境を目指して、シェアオフィスを開始。一般的なオフィス需要に加えて、学生と企業のマッチング、地元企業への採用サポートに差別化を見出す。

内陸の既存倉庫取得 オフィス仕様に改修
 丸山運送(仙台市宮城野区)は昭和37年の創業。仙台市を中心にした地元エリアで運送業や倉庫業といった物流事業を展開している。そんな丸山運送が、2018年4月にシェアオフィス「STUDIO 080」を開設した。
 同社は港近くに倉庫を保有していたが東日本大震災で被災。かつ本社機能の大半も失い厳しい状況であった。だが翌日から事業を再開し、約1年で前年度の売上を突破。この時の原動力、粘り強さ、事業を翌日から開始したスピード感がその持ち味。被災後に新規事業の開始を模索していた。行きついたのがシェアオフィス開設。
 当時、新たな倉庫を探していたところ、市内でも内陸に位置する既存倉庫の取得。6~7年前のこと。それまでは読売新聞の印刷工場兼倉庫であった。その工場兼倉庫を2階はオフィス、1階の約8割は倉庫で残りはオフィス仕様に改修。18年4月からシェアオフィス「STUDIO 080(080は会社名の丸山に由来)」を開始。現在は地元の大学生やインターン生、フリーランス等も利用する施設になった。年間延べ500名以上の大学生・インターン生が利用し、地元企業との繋がりも生まれている。現在会員数は約380名、利用企業は約30社。
 コミュニティーマネージャーの栃山剛氏は「そもそも宮城県は支店経済です。東京・大阪等に本社を構える企業の東北支店・営業所といった需要が中心となります。その様な地域であると街の経済発展は都心の企業等に影響されやすく、ビジネスの広がりも限定的です。当社は宮城県内で完結するビジネス環境やネットワークの構築を目指し、場の提供だけでなく出会いやマッチングできる環境も意識してシェアオフィスをつくりました。特に地元の中小企業と学生との出会いの場としての役割を果たしています」と語った。

優秀な人材へPR 学生とのマッチング
 企業にとっては優秀な人材(学生)へのPRや採用に繋げることができ、一方学生側から見れば宮城県内の優良な会社を知ることになった。更にフリーランスやスタートアップに加えて、企業のサテライトオフィスやリモートワークの拠点としても使用されている。中小企業の経営者のオフィスや自社オフィスの改装中における一時的な利用などもある。企業と学生の距離が縮まる中で、同社も様々な仕掛けを実施している。例えば、「宮城企業ナビオープンイベント」。3月に県内の優良企業5社の経営者を招き、就活生が経営者と直接対話できるイベントを開催した。この様なマッチングとも言えるイベントを定期的に開催し、日頃から学生が使用しやすい施設の形成へ繋げている。
 2階のオフィスはフリーアドレス席や個人契約のパーソナル席をはじめ、個室、小規模区画の賃貸オフィス、会議室、多目的ホール等を設置。5月には2階に、2~3人用の個室やラウンジ区画を拡張し、テレワークブースも設けた。これまで以上に快適なオフィスを目指した取り組み。増えつつあるスタートアップや企業のサテライトオフィスニーズを見据えた結果だ。更にビジネスサポートの一環にカーシェアリングやレンタル収納スペースの利用も可能である。
 栃山氏は「大手との差別化も考えて、地元企業の採用面へのサポートといった『地元特化』にフォーカスしました。地域に必要とされている部分を充実させ、地域の抱えていた課題に応えることができ、施設の魅力や利用者増加にも寄与しています。今後は更にプラットフォームの構築や新規事業への取り組みを続けていき、地元コミュニティで完結する環境形成に繋がればと思います」と述べた。

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