週刊ビル経営・今週の注目記事

毎週月曜日更新

インタビュー 築48年、駅徒歩10分でも10年満室 トイレなど徹底したメンテナンスがカギ

2020.10.26 10:45

 地下鉄などが縦横に走り交通至便な大阪市中心街において「築48年」「駅から徒歩10分以上」という不利な条件を抱えながら10年間満室稼働を続けているビルがある。好調経営の秘密について、オーナーである福智不動産リース福智幹太取締役にインタビューした。

―会社について教えて下さい。
福智 約50年前に父が創業し、現在は母が代表を務めています。もともとは一般的な不動産事業も行っていたそうですが、現在は「福智ビル」を初め自社保有する3棟の物件の管理・運営を手がけています。「福智ビル」は、1972年に竣工した地上6階建てのビルです。私の祖父が中央区内淡路町に住み、周辺の土地を購入してビルや倉庫を建てたうちのひとつです。また、私自身はビル事業とは別に、防犯カメラや顔認証システムなどセキュリティ機器の販売・施工・メンテナンスを手がけるセキュリーフという会社を経営しています。
―ビルが建つ中央区内淡路町とはどのような地域ですか。
福智 元々、この辺りは繊維関係の企業が集積する地域でした。しかし日本国内の繊維産業自体が徐々に衰退を続ける中で、廃業したり転出したりする企業も多くなっていました。そうした中で売り出された土地や古いビルが、今ではほとんどがタワーマンションに生まれ変わっています。駅からは徒歩10分~15分と遠いのですが、天満橋、谷町四丁目、北浜と3駅・5路線が使えることなどが人気なのだと思います。相次ぐマンション供給で居住人口は急激に増えており、小学校は教室が足りなくなって増築している最中です。
―今のオフィスマーケットについては。
福智 この辺りは繊維関係に加えて、大阪府庁など官公庁が近いことから、いわゆる「士業」関係の事務所ニーズが昔からありました。ビルがマンションに生まれ変わるということは、地域のオフィス供給の絶対数は減っているということです。士業など「この地域でなければいけない」といった法人のニーズをうまく拾っていければ、十分にビル事業は成り立ちます。現に福智ビルは10年間空室が発生していません。
―その秘訣はなんでしょうか。
福智 当然ですがビルの立地や大きさは変えようがありません。今あるビルで勝負し続けなくてはなりません。そのためにはメンテナンスをしっかり行って常に良好な状態を維持すること、必要なリニューアルは躊躇せずに思い切って行うことを心がけています。3年前には共用廊下の全面塗り替えを行い、1年前には外壁をリニューアルしました。現在、エアコンを順次リニューアル中です。また、エレベーターを停止させてのメンテナンスは月に1回行っています。
―特に力を入れている部分はどこですか。
福智 トイレです。ビルができた当時と現在との大きな違いは、働く女性が増え、ビルを利用する人の中で女性が占める割合が増えたことです。このため、特に近年は快適・清潔なトイレ空間の提供に力を入れています。温水洗浄機能付き便座はもちろん導入していますが、操作スイッチが便座の脇ではなく、壁に備え付けられたタイプのものを採用しています。費用面では前者の方が安いのですが、「便座の脇のスイッチは不潔そうで触るのが嫌だ」という声もあり、高級タイプを導入しています。当社のクラスのビルで操作スイッチが壁備え付けタイプの温水洗浄機能付き便座を導入しているケースは少ないのではないでしょうか。
―防犯システム販売・施工の会社も経営しているそうですが、自身のビルのセキュリティについては。
福智 建物のセキュリティを強化するということは、その分利用者のプライバシーや自由度などが損なわれることにもなりかねませんので、いかに両者のバランスを図るかが重要です。それを考えた結果、防犯カメラは1階共用部にだけ取り付けました。
 ビルが建った当初はトイレが男女兼用だったのを、後にフロアごとに男性用・女性用にリニューアルしたという経緯があります。つまり女性用トイレがあるフロアに他のフロアで働いている女性がいるということは、すなわちトイレに行くということです。各フロア共用部の様子を防犯カメラで映してしまったら、「誰がいつトイレにいったのか」「どのぐらいの時間利用していたのか」がわかってしまいます。それはプライバシー保護の観点から問題があると考えました。
―セキュリティの専門家として、ビルのセキュリティ対策についてアドバイスをお願いします。
福智 福智ビルの例からもわかるように、個々のビルにより事情は異なりますので、それにあったオリジナルの対策を講じることが重要です。防犯カメラ、顔認証システム、センサーなどはそれぞれ複数のメーカーが出しています。場合によっては、単一メーカーにこだわるのではなく、「カメラはA社、警報装置はB社」など、複数メーカーの機器を組み合わせてネットワークを構築する方が、費用や効果などの面でメリットが生じることがあります。

PAGE TOPへ