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ワークスタイルトレンド テレワークの先にある5つのオフィスニーズ

2020.07.13 17:19

初の在宅勤務から見えたビルの役割
 新型コロナウイルスの勢いは夏に差し掛かっても弱まる様子は見せていない。7月に入り、1日の東京の感染者数は3桁を記録している。緊急事態宣言が解除されて徐々にオフィスへ人が集まってきていたものの、再び在宅勤務を推奨する企業も出てきている。在宅勤務を経験するなかで、企業は在宅とオフィスの最適な使い分けを模索する動きも出ている。ではこれからのオフィスの役割は何か。三井住友トラスト基礎研究所(東京都港区)投資調査第2部研究員の高林一樹氏は「5つに集約される」とみている。

 三井住友トラスト基礎研究所でも今回のコロナ禍で初めて全社的な在宅勤務体制を敷いた。同社ではこれまで、育児や介護などの理由がある場合を除いて在宅勤務は認めていなかったが、感染症対策のため政府が緊急事態宣言を出す直前の3月下旬、在宅勤務体制へ移行した。
 在宅勤務にあたっての機材はあまり問題にならなかったようだ。研究員は出先でも仕事ができるようにモバイルパソコンが支給されており、加えて在宅での長時間作業用に大型の液晶モニターも配布されている。事務職員の在宅体制を整えるために新たな支給も必要だったようだが、「おおかたスムーズに移行することができました」(高林氏)。
 社内でのコミュニケーションにはあらゆる通信手段を利用した。簡単な話であれば社内の専用チャットや貸与されているiPhoneを利用。打ち合わせなどにはオンライン会議システムなども活用している。基本的な業務の遂行に大きな支障をきたすことはなかったようだ。
 現在は「感染状拡大況を見ながら、しばらくは週1日程度をめどに出社しようと思います」と話す高林氏。実際に在宅勤務を経験して「基本的な業務は遂行でき現状を維持することは可能だが、込み入ったコミュニケーションや新しいプロジェクトを起こしていくのには限界がある」と振り返る。
オフィスの再検討する企業 コロナ禍は「変化を急速に早めた」
 ワーカーにとって今回の経験が働き方を見つめなおす結果になったと同様に、企業にとってもオフィスのあり方を再検討する機会となっているようだ。
 すでに大手エレクトロニクスメーカーの国内オフィス半減や、大手証券会社の店舗削減などが報道で取り上げられている。これまで在宅勤務はITベンチャーと相性が良い、と考えられがちだったが、それは過去の話のようだ。高林氏は国内の企業の動向について次のように話す。
 「オフィス動向の観点からは、4つの動きに分けられると思います。1つめは、在宅勤務を取り入れつつもオフィスを重視する動きです。ここでは在宅ではできないオフィスの役割を再認識し、その要素を自社オフィスに導入しようとしています。2つめは在宅勤務では業務上の限界があり従来のオフィスに回帰する動きです。そもそも在宅では業務に支障を来すような業種はもちろん、対面での打ち合わせが基本となるような業種でもこの動きが見られます。3つめは在宅勤務制度を維持しつつオフィスも現状維持というもの。そして4つめが在宅勤務推進によるオフィスの縮小です。3つめと4つめの動きについては流動的で、最近までオフィス面積には言及していなかった国内大手企業が縮小に移ったケースもありました」
 これらの企業側の動きは、コロナ以前には、「働き方改革」やITツールなどが普及していった先のことととらえられていた。しかしコロナ禍はその変化を急速に進め、企業は半ば強制的にそれに対応せざるを得なくなった。
 高林氏は自らも在宅勤務中だった4月27日にレポート「在宅勤務拡大によって期待・再認識されるオフィスの役割とは」を発表している。そこでオフィスのこれからの役割として挙げたのが、「集中」、「コミュニケーション」、「オフィスでしかできない仕事」、「リフレッシュ」、「一体感」の5つだ。
 「とはいえ在宅勤務の方が『リフレッシュ』を強く感じる人がいるかもしれませんし、『集中』も必ずしもこれまでの都心部である必要はなく、主要都市にあるサテライトオフィスの利用でも可能でしょう。一方で、『コミュニケーション』や『一体感』、また『オフィスでしかできない仕事』については、従来のオフィスならではの役割だと考えています。特に遠隔でのコミュニケーションでは、社員の指導教育やイノベーションを生むことは難しく、対面のコミュニケーションの重要性が今回再認識されています」
オフィス圏は周辺部へ拡大 ビルの付加価値に焦点か
 注目したいのがデベロッパーや大手運営事業者が展開するシェアオフィスやコワーキングスペースなどのワークスペース開設のエリアだ。都心への集中的な出店が見られる一方、周辺部の急行停車駅等での開設が増加している。高林氏は「都心への新規出店が抑えられる一方で、周辺部への出店増加は今後のトレンドになってくるかもしれない」と予想する。このようなスペースへの需要は更なる拡大局面を迎えていきそうだ。
 ビルの需要については、急速に減退することはないとみられている。ただ幅広い規模や業種でオフィス縮小の動きが顕在化していることもあり、空室率のゆるやかな上昇は避けられない。高林氏は今後のオフィスビルに対するニーズとして「出社することの意義が問われるようになり、5つの役割のいずれかに特化したスペースへのニーズが高まるのではないか。たとえば共用部を充実させてコミュニケーションをとりやすい環境にしていく、快適性を向上させリフレッシュと集中の両立を図るといったことは、今後より多く取り組まれていくのでは」と話す。
 高林氏はこれからのオフィスのあり方について「まだコンセンサスはない」と話す。アフターコロナの大勢を見極めるには、しばらくは動向を見守る必要があるようだ。ただ、コロナ以前に戻る、という見方はごく少数。変化することは必至だ。前のめりに手を打つことはできないが、後手に回らないよう企業の動向を注視しておきたいところだ。


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