不動産トピックス
【5/25号・今週の最終面特集】大手企業が注視する未来をつくる事業支援

2026.05.25 10:47
社会課題の解決や新技術の社会実装目指す 研究・文化発信の成果を報告
未利用資源を有効活用 クラゲからクラフトビール
人口減少に少子高齢化に加え、不透明な世界情勢といった外的要因など、日本の社会や経済を取り巻く環境は常に変化している。同時に、直面している課題も多様化しており、さまざまな人のアイディアやチャレンジが未来を変える可能性を大いに秘めている。大手企業が取り組む支援の現場を紹介していきたい。
350周年記念事業 若者の挑戦をサポート
三井グループは2023年、江戸時代の商人・元祖「三井高利」が江戸に進出し、日本橋に越後屋を出店した1673年から350年の節目を迎えた。同グループでは23年度から27年度の5年間、グループの存在意義を再確認しながら社会課題の解決に取り組む姿勢を体現すべく、記念事業を実施している。
その一環として実施されている「三井みらいチャレンジャーズオーディション」は、未来に向けた良き社会づくりに夢や目標を持ち、チャレンジする若者を発掘・支援するプログラム。選考による最終通過者(チャレンジャー)は活動資金として初年度に500万円が支給され、最長で2027年度まで三井グループ25社による継続的な支援が提供される。プログラムは「事業・社会活動」、「研究・留学」、「カルチャー創造」の3部門で構成され、合計722名から応募があり、最終的に選出された30名のチャレンジャーが24年3月より様々な取り組みへのチャレンジをスタートさせた。
今月12日には、JR「東京」駅前の「東京ミッドタウン八重洲」にて2回目となる報告会「チャレンジャー発表会 STAGE UP MEETING 2026」が開催された。これは4年間の支援期間の折り返しを迎え、各チャレンジャーがこれまで取り組んできた活動の歩みや成果、2026年度における展望や意気込みについて発表するというもの。当日は会場への出席のほかオンライン参加、ビデオメッセージを含め30名全員が参加し、各自のチャレンジの現在地を共有するとともに、多様な分野や背景を持つ参加者による意見交換が行われた。
「研究・留学部門」の佐藤愛海さんが取り組んでいるのは、クラゲの研究。「幼いころからクラゲが好き」と話す佐藤さんは、クラゲで革命を起こすべく、東京大学水圏生物工学研究室を1年休学してクラゲ研究のフィールドワークに特化し、クラゲの有効活用に向けた活動を行ってきた。クラゲの無性生殖のメカニズムの解明とその応用に向けた研究は、クラゲの有効活用や発生予測、クラゲによって引き起こされる諸問題の解決にもつながるとしている。直近では、原料の一部に横浜市産のミズクラゲを使用したクラフトビール「くらげクラフト」を数量限定で販売。未利用資源の有効活用を通じて、海と人類の共生を目指す。
「カルチャー創造部門」の桂枝之進さんは、幼少期からの落語への関心が高じて中学卒業後に15歳で桂一門に入門。落語がより現代の大衆芸能としてZ世代に自然に受け入れられるためのアプローチを「Z落語」というテーマで模索している。落語演目「落雷」では、舞台の背面に巨大なLEDスクリーンを設置。話の展開に合わせた映像表現を行い、生身の落語家との共演を試みる実験的な公演にも取り組んだ。また、落語とテクノ音楽を融合させたユニット「MATSUBA」にも参画し、3都市で初ライブツアーを行うなど新たな表現にも挑戦している。
このほか、発表会では各チャレンジャーの個性的な取り組み発表が展開された。会場には三井グループ350周年記念事業実行委員会の委員長で、三井不動産(東京都中央区)の菰田正信会長をはじめ、同委員会の副委員長で三井物産(東京都千代田区)の堀健一社長、同じく副委員長で三井住友銀行(東京都千代田区)の福留朗裕頭取が出席。三井グループの企業風土「人の三井」の精神が、若者の挑戦を後押しし未来を切り拓く。
地域活性化に貢献 地元企業の取り組み
日建設計(東京都千代田区)は先月24日、Zebras and Company(東京都港区)とともに運営する、社会起業家への伴走支援を行う社会環境共創プログラム「FUTURE LENS」の第1期初年度報告会を、千代田区一ツ橋の「パレスサイドビルディング」内の共創プラットフォーム拠点「PYNT竹橋」にて開催した。「FUTURE LENS」は、日建設計が取り組む共創プラットフォーム「PYNT(ピント)」の活動の一環として展開しているもので、地域で社会課題の解決に取り組む社会起業家やローカル・ゼブラ企業と、日建設計の社会環境デザインの知見を掛け合わせ、地域における実践から「未来の都市」のヒントを得て、社会実装につなげることを目指す。
「FUTURE LENS」の第1期では、2年間のプログラムに対して全国から111件のプレエントリーと56件の本応募が寄せられ、最終的に3社が採択された。採択後はワークショップや研修などを通じて対話を重ねながら、仮説の設計と検証を進めてきた。今回の報告会では初年度の活動成果の報告と2年目に向けての目標や、日建設計の共創社員チームによる具体的な活動内容などが発表された。
医療法人社団オレンジ(福井県福井市)は、「人の暮らしをBe happy!に」を合言葉に、2011年に創業。福井・石川・長野にて診療所「ほっちのロッヂ」を含む4カ所の在宅医療拠点にて24時間体制で500名以上に対して在宅医療を届けている。また医療だけでなく、カフェや商店街、まちなかの居場所づくりなど、地域の暮らしを支える事業にも積極的に関わっている。「FUTURE LENS」では、医療をまちづくりに組み込み、命を支える環境の実現を目指し、医師向けのプログラムの実施や「ほっちのロッヂ」の特徴の可視化に取り組んできた。
鹿児島県西部の日置市に本社を置く小平は、エネルギー事業やIT事業など展開する創業114年の老舗企業である。2024年に同社が本社を移した日置市の湯之元地区は歴史ある温泉街で、近年は雇用の減少や高齢化、空き家の増加が深刻な課題となっている。「FUTURE LENS」では「『働く』をキーワードにまちをひらく」をテーマに掲げ、湯之元地区を「働きたくなるまち」として再生することを目指す。その取り組みの1つが、空き家をミーティングルームやワーキングスペースへリノベーションする「街まるごとオフィス」プロジェクト。同社の本社オフィスだけでなく周囲の空き家を改修してオフィスにすることで、会社でありつつ地域コミュニティの場としても機能する新しい場所づくりを進めている。
水中(東京都国立市)の代表を務める坂根千里氏は、大学在学中からアルバイトでスナックの文化に触れ、卒業後に国立市谷保のスナックを継承し新卒で同社を創業。現在はJR「谷保」駅徒歩2分の「スナック水中」のママとして活躍中である。スナックは世代や属性を超えた多様な人々が立ち寄り、交流するサードプレイスとして人気が再燃しつつある。坂根氏は人と人とのつながりの希薄化という現代の地域コミュニティの課題に着目し、スナックを拠点として生活圏内でお互いが頼り合い、楽しみ合うことでつながりが生まれる社会を目指す。「FUTURE LENS」では、関係性を育む場の法則を体系的に分析し、スナックの新しいあり方の具現化に取り組んできた。
報告会には採択された3組と、各プロジェクトに参画している日建設計の社員が登壇。同社の大松敦社長ら関係者が発表内容に真剣に耳を傾けていた。



