不動産トピックス
【5/18号・今週の最終面特集】「街づくり」をアップデートする共創のあり方とは

2026.05.18 12:05
入居企業が自律的にイノベーション創出へ
「ギルド」を中核に知見やアイデアを融合
名古屋に立地する国内最大級のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」。入居企業同士の共創基盤となっているのが「ギルド」だ。今、この「ギルド」が入居者の自発的な取り組みで続々と立ち上がっている。「ギルド」が軌道に乗るようサポートしたのが、station(東京都港区)。企業同士の共創を創出していく上で、しばしば課題となるのがコミュニケーションやコミュニティづくり。なぜ「STATION Ai」ではそれがうまくいっているのか。
会員メンバー主体でギルドの数は16に
「STATION Ai」はJR・地下鉄鶴舞線「鶴舞」駅(「STATION Ai前」駅)から徒歩6分の場所に立地する。2024年10月に開業した国内最大級のオープンイノベーション施設で、会員企業数は約1000社、会員企業同士のオープンイノベーションの件数は300件を超える(いずれも2026年3月末時点)。
オープンイノベーションとは、自社のリソースだけでなく他社や学術機関などの外部の知見を合わせながら革新的な製品や新規事業を創出すること。自前のリソースに依拠したクローズドなイノベーションと比べて、外部の知見も活用することで、より革新的なアイデアの獲得や多様化するニーズに対応できることなどが挙げられる。
不動産デベロッパーもこうしたオープンイノベーション施設を多く立ち上げており、さまざまな成果を生み出している。一方でこうした施設でしばしば課題となるのは、入居企業同士の共創に向けたコミュニケーションやコミュニティづくり。コミュニティマネージャーが施設に常駐して入居者同士の関係性づくりに力を入れることが多い。
「STATION Ai」のオープンイノベーションの真骨頂は、こうした共創をコミュニティマネージャーだけに頼るのではなく、入居企業同士で自走する形を実現していることだ。
コミュニティのアドバイザーを担ったのが、stationだ。同社は「STATION Ai」でコミュニティのコンセプト設計や多様なステークホルダーとの連携スキームの整理、コミュニティサービスのアドバイザリを担った。自社を「プロトデベロッパー」と定義し、「『地域にあってほしい未来』から逆算し、街や施設のあるべき姿を構想・実装していく」と掲げている。
そもそも「ギルド」とは何か。これは事業領域や関心が近い会員企業同士のコミュニティで、定期的な議論や相互の知見や技術をもって課題解決を目指す。2026年1月末現在、ギルドの数は16を数え、「街づくり・不動産活用ギルド」や「生成AIギルド」などがある。コミュニティ設計を担当したstationの森田空・名古屋支部長は「スタートアップや事業会社など1000社の会員企業がそれぞれの関心領域や課題を共有できるパートナーを見つけて課題解決やイノベーションを起こしていくためには、メンバー同士が自発的に協力していく形にすることが不可欠だった」と話す。
ギルドはコミュニティマネージャーの承認の元、会員企業であれば自由に立ち上げることができる。たとえば自社の目下の課題をテーマとしたギルドを立ち上げれば、それに対する知見などを持つ会員企業と議論を深め、自社のリソースだけでは見つからなかった解決策を見出すことも可能だ。
ギルドに集まった知見やノウハウを活用して、地域や社会への還元も期待される。stationの森田氏がギルドオーナーを務める「街づくり・不動産活用ギルド」には自治体から事業会社、スタートアップなど50社超が参画。大企業や自治体が自らの課題やニーズをスタートアップにプレゼンしてパートナーを募る「リバースピッチ」や、勉強会やフィールドワークなどを定期的に開催している。
不動産系ギルドの提案が外部のプログラムに採択
このギルドからの共創提案が最近、名古屋の多目的アリーナ「IGアリーナ」とその周辺での共創プログラム「IGNAS」にて採択された。このプログラムは中部電力(名古屋市東区)、愛知国際アリーナ(名古屋市北区、IGアリーナ)、NTTドコモ(東京都千代田区)の3社が主催。「IGNAS」とは、IGアリーナと、IGアリーナのファウンディングパートナーである中部電力、NTTドコモの3社の主催企業が、スタートアップなども含めたさまざまな企業とともにIGアリーナと周辺地域の課題解決や活性化に向けて共創するプログラム。「コミュニティ」や「DX」、「エンタメ体験」、「サステナビリティ・レジリエンス」などの6つのテーマで募集。「コミュニティ」のテーマでギルドからの共創提案が採択された。
「IGアリーナ」では「興行前後の来場者の街への回遊」が課題になっていた。森田氏は「1万7千人を収容できる国内最大級のアリーナとなっていますが、駅とほぼ直結しているアクセス性のために来場者にどのようにしてエリアを回遊してもらって地域の経済効果を高めるかが課題となっていたようです」と説明する。
そこでギルドのメンバーと連携して、地域のハブ機能を担う「可変型ポップアップ拠点」などを提案。イベントに合わせて拠点の空間を変えていくとともに、近隣地域のプレーヤーと連携したポップアップ運営と地域の情報発信を行うことで、興行前後に来場者が地域を回遊し、経済効果の創出を目指す。森田氏は「中長期的に取り組んでいきたい」と意欲を見せた。
「STATION Ai」で一定の成果を出す「ギルド」は同様の施設運営において大きなヒントになりそうだ。stationとしても成功事例のさらなる創出に向けて、不動産デベロッパーや施設オーナーなどとの連携を模索する。森田氏は自社の強みについて「建物が入居者や地域のステークホルダーに対して価値を提供できるように命を吹き込んでいけることだ」と強調する。
どのような「ハコ」をつくるかだけでなく、どのような「中身」をつくるかも、これからの不動産開発では注目されるかもしれない。
「STATION Ai」とは
「STATION Ai」は、日本最大級のオープンイノベーション拠点。スタートアップの創出・育成や、オープンイノベーションを促進するための多様な支援を提供している。約1000社の国内外のスタートアップ、パートナー企業、VC、大学などが参画し、新規事業の創出に取り組んでいる。館内にはレストラン、ホテル、ジムなどを備えた快適なオフィス環境が整い、勉強会やメンタリング、企業間のマッチング機会が豊富に用意されている。さらに、専門スタッフによるきめ細やかなサポートも充実している。
「ギルド」の雰囲気は?参加者の自由な発想が課題解決の糸口に
記者が「STATION Ai」を訪れた日に「街づくり・不動産活用ギルド」では日本工営都市空間(名古屋市東区)が「寺院活用リバースピッチ」を開催しており、参加する機会を得た。
プレゼンしたのは、現役の僧侶でもあるという日本工営都市空間の社員。同社員の説明によれば、全国的に寺院は檀家の減少や建物の老朽化、信徒の高齢化などの課題に直面しており、平日は会社員として働きながら土日は僧侶として務めを果たす、「兼業僧侶」が多いという。それでも寺院を維持していくことは難しく、2040年までに約4割が廃業するという推計も出ている。
そこで注目されるのが、寺院の広大な敷地やリソースを活用する「寺院活用」。寺院の敷地や空間を活用するには「寺院規則」を変更する必要があるが、それができれば自由度高く活用できるという。
このリバースピッチでプレゼン者が参加者に求めたのは、寺院という特性を生かした活用法の提案。10人ほどのグループに分かれてワークショップが始まり、「宿坊」や「カフェ」などのアイデアが出てきたり、参加していた住職から実体験に基づいた活用時の注意点などが共有されていた。



