不動産トピックス
【12/22号・今週の最終面特集】新築オフィスビルの最新動向 成功の秘訣とは

2025.12.22 10:54
満室稼働の「日本橋本町M-SQUARE」 ライフサイエンスや宇宙産業関連企業も入居
現在新築オフィスビルの需要は高く、竣工前に早期リースアップとなるケースも多い。成功の秘訣はスペックだけでなく、昨今のオフィスニーズに応えた機能性。屋上庭園やシェアラウンジが好評だ。今後保有ビルの建替えを検討する場合は、これら新築ビルの事例を参考にすると良い。
鹿島建設との共同事業 11月12日に満床で竣工
三井不動産(東京都中央区)と鹿島建設(東京都港区)は、共同事業として「日本橋本町M―SQUARE」を開発。11月12日に満床で竣工を迎えた。
「日本橋本町M―SQUARE」は中央区日本橋本町1丁目の昭和通り沿い、江戸橋の近くに立地。東京メトロ銀座線・半蔵門線「三越前」駅から徒歩4分、東京メトロ銀座線・東西線・都営地下鉄浅草線「日本橋」駅からは徒歩5分。複数路線利用可能で交通利便性が高い。規模は地上12階地下1階。延床面積1万4222・24㎡。敷地面積1433・46㎡。基準階貸室面積は約960㎡(約300坪弱)。1階は店舗。空中階はオフィス仕様となっている。
特徴はビルのデザインと機能性。テーマは、「歴史の継承」と、「立体的な緑のデザイン」。外構の照明に行燈のような演出を施しており、日本橋という立地を踏まえた「歴史の継承」を感じられる意匠とした。北側の外構空間では、江戸時代には河岸だった立地背景を踏まえ、当時の石積みを想起させるデザインを採用。日本橋らしい「和」のテイストが見て感じられる。
また建物のエントランスや外構に、多様な植栽を設けることで「立体的な緑のデザイン」を表現。樹木などの植栽を配置することで、就業者・来館者にも癒しとやすらぎを与える。エントランスには、三井不動産グループ保有林の木材を生かした木製ルーバーを採用。自然豊かな仕上がりとなり、快適性も整えた。
環境配慮の省エネ性能 脱炭素社会にも貢献
就業者の快適性に対しては、屋上庭園を整備。高中木や低木地被類の複層的な植栽を配置した。仕事の合間の息抜きやランチタイムにおけるリフレッシュなど、快適に過ごせる場を創出。また就業者の健康意欲向上を目的として、屋内階段の利用を促進する工夫を凝らした。エントランスのすぐ近くに屋内階段を配置。各階の階段踊り場には、階数と花暦(はなごよみ)を連動させた壁面アートを施した。特徴付けや差別化、遊び心も取り入れることで、自然と階段を利用したくなる工夫をしている。
環境に配慮した省エネ性能も魅力。脱炭素社会の実現に向けて、「ZEB Ready」認証(建物全体)取得。「DBJ Green Building認証」(プラン認証)や「CASBEE」―Aランク(自己評価)も取得した。その他に縦基調の外装採用による開口率の低減。Low―Eペアガラスといった高性能ガラスや高効率LED照明器具、節水型衛生器具も採用した。昨今企業では株主やクライアントなどに、脱炭素社会に向けた取り組み内容の具体的な情報の提示を求められている。テナントは入居するだけで、環境負荷低減への取り組み姿勢をPRできる。そのようなニーズに同ビルは応えることが可能だ。
エリアの特徴も生かしている。三井不動産は街づくりの経験を生かし、「産業デベロッパー」として社会課題の解決や新しい産業を生み出す取り組みを進めてきた。2016年にライフサイエンス分野における一般社団法人LINK―Jを立ち上げ。22年には宇宙産業分野においての「一般社団法人クロスユー」を設立。両分野で研究から事業化までを支える環境を整備してきた。様々な分野の人々が集まる「場」と、新たな連携や実証につながる「機会」を提供。これらの産業でイノベーション創出を目指す新産業創造を後押ししてきた。
柴田氏は「『日本橋本町M―SQUARE』では様々なテナント様にご入居を決めていただいており、中にはライフサイエンス・宇宙産業関連企業も含まれます。ご入居企業の皆様には本物件をご活用いただくとともに、街づくりを通して各産業分野でのさらなるイノベーション創出を後押ししてまいります」とした。
上野で販売用不動産取得「VORT上野plus」
「区分所有オフィスR」を主軸に資産形成コンサルティングを行っているボルテックス(東京都千代田区)は10月末、「VORT上野plus」を取得。11月時点で募集フロアの半分は成約済み。残りのリーシングも順調に進んでいる。
ボルテックスは東京都心部の好立地を対象に、中規模のオフィスビルをフロアごとに分譲した商品「区分所有オフィスR」を販売している。2013年5月竣工の「VORT東陽町ビル」から始まり、現在は都内だけでなく政令指定都市でも展開。収益性・流動性に優れた物件は最上位ブランド「maximR」として提供。今年でVORTRシリーズは200棟を突破した。
新たに取得した「VORT上野plus」は、今年6月末竣工の新築ビル。建築主および施工は大和ハウス工業(東京都千代田区)で、建設中に取得に向けた契約が進行。10月末に本契約と至った。ビルは東京メトロ銀座線・日比谷線「上野」駅から徒歩3分、JR各線「上野」駅からは徒歩5分の浅草通り沿いに立地。銀座線「稲荷町」駅からも徒歩4分、その他3駅からも徒歩10分圏内と交通利便性に優れている。都心の主要エリアにもアクセスしやすく、「上野」駅は新幹線も利用できるなど、ビジネス拠点としての利便性は高い。規模はRC造の地上12階建て。延床面積は2762㎡。敷地面積は363・99㎡。
賃貸区画は2~12階までの11区画。貸室面積は2階が181・30㎡(54・84坪)。3~5階は181・65㎡(54・94坪)。6階は178・18㎡(53・89坪)。7階は178・53㎡(54坪)。8~9階は178・69㎡(54・05坪)。10~12階は178・94㎡(54・12坪)。OAフロア完備。整形の無柱オフィス。貸室内にパントリーを設置し、ビル正面の眺望が見える位置は木目調の設えとなっている。
交通利便性を強みに 新築需要にも応えた
特徴は1階のシェアラウンジ。最も賃料が高く取れる1階を入居者同士の交流が図れるラウンジスペースとミーティングルーム、テレカンブースに変更していること。ラウンジスペースは簡易的な打ち合わせや一人集中しての作業、リフレッシュも兼ねた使い方ができる。ミーティングルームはカメラやスピーカー、タッチパネル、パソコンを一台に集約したシステムを採用。円滑なウェブ会議に対応できる。個室が5台設置されたテレカンブースもウェブ会議に集中できる造り。遮音性の高さに加えて、入居テナントは専有部内にウェブ会議用の個室をつくる必要がないほど数が充実している。需要の高まっている柔軟な働き方に同ラウンジは対応できる。
環境認証制度「ZEB Ready」も取得。外壁は高断熱化。ガラスは高機能なLow―E複層ガラス。高効率な空調システムやLED照明導入による消費電力抑制により、省エネ化を実現。リーシングコンサルティング部 リーシングマネジメント課の野中浩一氏は「同じエリア内での交通利便性の向上を目的とした移転や、新築オフィスへのスペック改善・拡張移転などに適した物件です。中には東京支店のオフィスや他エリアからのアクセス性を加味した移転先にも好ましいと思います。浅草通りを挟んだ向かいでは、現在大規模複合再開発が計画されています。数年後には周辺地域の快適性も高まると見ています」と近隣の変化も述べた。リーシングと同時並行で、各フロアを「区分所有オフィスR」として販売する。



