不動産トピックス

【6/23号・今週の最終面特集】脱炭素社会の実現へ 木造マンション普及の兆し

2025.06.23 12:25

RC造と同等以上の性能持ち高い居住性
サステナブルへの関心高まり供給増
ワンストップの事業計画でオーナーのコスト負担を軽減
 近年広がりをみせている木造マンションでの暮らしは、環境問題への貢献だけでなく、自然の素材を使用した空間で過ごすことによる豊かさの享受も、メリットとして挙げられる。建築技術や構造材の性能向上によって木造建築は居住性のみならず安全性にも優れているとして認知されるようになってきた。

耐火構造の木造賃貸マンション 東京・東村山で竣工
 マンションといえば、鉄筋コンクリートを構造部材に使用するのが一般的である。一方で、近年はサステナブルの社会の実現に向けた取り組みが広く浸透しつつあり、木造マンションに対する入居者側の関心が高まっている。そのような中、日生リビングシエスタ(東京都東久留米市)は、同社としては初となる耐火構造の木造賃貸マンション「The Siesta 東村山 BrickHaus(ザシエスタ東村山ブリックハウス)」を、今年4月末に竣工した。
 日生リビングシエスタでは、賃貸住宅の開発分譲を中心に、建設請負、売買・賃貸仲介・管理、不動産証券化事業を展開。なかでも一都三県で展開している賃貸住宅ブランド「Siesta(シエスタ)シリーズ」は、資金計画から建設施工、建築後の賃貸管理や建物維持管理といった一連の業務を内製化することで、中間マージンによるオーナーのコスト負担をできる限り排除した点が特徴となっている。「Siestaシリーズ」は単身者向けの「Siesta Villa(シエスタヴィラ)」や2人入居が可能な「Siesta Duo(シエスタデュオ)」などをラインアップし、今回竣工した物件はこれまでの設計・運用ノウハウを結集した「The Siesta」の第2弾として誕生したもの。複数人向け、ファミリータイプの全戸2LDKの間取りとなっている。
 所在地は東京都東村山市久米川町で、西武新宿線「東村山」駅より徒歩15分ほど。木造在来軸組工法の地上3階建てで、全12戸の構成。外観はニューヨーク・ブルックリン地区をイメージしたレンガ造り風のデザインを採用し、カウンターキッチン・オートロック・宅配ボックスなど、快適な暮らしを実現する機能を装備している。同社によれば、もう間もなく満室になる見込みで個人の入居者のほか法人契約も多いとのことだ。
 木造マンションとは、構造部材や壁、床などに木材を使用した中高層の居住用建築物である。これまで木造の集合住宅は鉄筋コンクリート造と同等の性能を有していても「アパート」に分類され、一般消費者に対しては「マンション」よりも性能面で劣るというイメージを与えていた。だが先述の通り、サステナブルやSDGsへの関心が高まる中で木造の共同住宅の「マンション」表記への機運が高まり、大手不動産情報サイトでは2021年より一定の条件を満たした木造の共同住宅について、「マンション」で表記する統一ルールを設けた。そのルールとは以下の通り。
(1)共同住宅であること
(2)3階建て以上であること
(3)住宅性能評価書を取得した建物であり、以下の条件の両方を満たしていること
・劣化対策等級(構造躯体等)が等級3
・耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)等級3または耐火等級(延焼の恐れのある部分(開口部以外))が等級4、もしくは耐火構造
 「The Siesta 東村山 BrickHaus」は、劣化対策等級3、耐火等級4を取得し、「木造マンション」表記が可能な性能を備えている。日生リビングシエスタの下村尊彦社長は「事業シミュレーションを実施した上で、今回は木造マンションでの開発が最も収益のパフォーマンスを出せると判断しました。住宅市場では木造に対するネガティブなイメージが残っているものの、技術の進歩で耐火性や遮音性でRC造と同等の性能を実現するようになっています。現在は木造マンションとRC造アパートで家賃に大きな差はありません。今後さらに木造マンションへの関心が集まり、木造マンションで暮らすことがサステナブルな社会に貢献するという入居者側の意識が定着していくことで、木造マンションの資産価値向上や家賃の差別化にもつながっていくのではないでしょうか」と話す。日生リビングシエスタでは住宅ニーズが高い「東京」駅から30km圏内を主な営業エリアとし、年間10棟100戸の供給を目指し積極的な提案を行っていく構えだ。

純木造4階建てが完成 建設会社のネットワークを拡充
 AQ Group(さいたま市西区)が主導する建築集団・フォレストビルダーズは今月6日、全国各地の総合建設会社などを対象に「建設新時代を勝ち抜く『二刀流』経営セミナー」を開催した。日本最大級の木造建築集団を目指す同組織は、国内における4階建て以上の中大規模建築物のほとんどが非木造であり、木造建築企業にとってブルーオーシャンであることに着目。「鉄筋コンクリート造も木造も建てられる『二刀流』が新時代を勝ち抜く経営戦略である」と訴えた。  「木造建築の復興」を掲げ、地域の工務店や建設会社などで構成されているフォレストビルダーズは、AQ Group主導のもと昨年秋に本格始動した。同社がおよそ半世紀にわたる実績と研究開発によって生み出した独自技術の「AQダイナミック構法」と「AQ木のみ構法」を共有し、「木造建築で街並みに森を増やしていく」ことを目指す。加盟企業を募集するセミナーやイベントはこれまでに19回開催されており、延べ345社が参加。「AQダイナミック構法」による戸建て木造住宅の建築集団はすでに30社が加盟している。  今回のセミナーでは、5月に完成した純木造4階建てマンション「AQフォレスト大宮桜木町」の見学や、中大規模木造建築を対象とした「AQ木のみ構法」の解説などが行われた。「AQ木のみ構法」で建てられた「AQフォレスト大宮桜木町」は、見学会に参加した建設会社にとって現実的な規模感である純木造4階建てであることから、積極的な意見交換が行われた。参加者からは「耐震等級3を取得する設計手法に感心した」などの意見が寄せられた。また、AQ Groupの本社で開催された経営セミナーでは同社フォレストビルダー事業部の堀野雅人部長が登壇し、「約16兆円となっていた非木造市場には、木造を得意とする各社が次々と参入している。法改正や補助金など、国の後押しもあり、まさに建設新時代に突入したのではないか」と述べた。  中大規模木造建築を低コスト、短工期でありながら高耐震、高耐火、高遮音性といった高性能を実現する「AQ木のみ構法」はライセンス契約によって技術を共有。フォレストビルダーズの一員である「中大規模木造建築共創ネットワーク」に加入することが条件となる。堀野氏は「実践を積み重ねて、建設業者同士が高め合っていく『共創』が同ネットワークのコンセプトです。まずは各都道府県でそれぞれ1社のライセンス企業と提携していき、着実に日本最大級の木造建築集団を目指していきたいです」と意気込みを語った。

大手各社も木造に注目 賃貸住宅の新たな価値に
 木造マンションには大手不動産会社も注目を寄せている。早くから木造マンションの開発に取り組んできた三井ホーム(東京都江東区)は2021年の「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」を皮切りに、木造マンションの開発に注力している。環境への配慮は不動産各社が重要視する領域であり、木造マンションの供給は事業戦略や企業方針に合致する。一般の居住者の間でも木造マンションの価値やブランド力が今後ますます浸透していくものとみられるだけに、各社による木造マンション開発が活発に展開されることは間違いない。




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