不動産トピックス
【5/26号・今週の最終面特集】不動産事業者が行う地域活性化と今後の戦略

2025.05.26 10:38
模範となる地域制裁型のまちづくり
築古物件の再生やエリアブランディング等が評価され受賞
不動産事業者でありながらビルオーナーでもある企業が、継続して地域活性化やエリアブランディング等を行ってきた事例がある。これら取り組みが表彰され、他の地域からも注目を集めだした。街の新たな魅力発信の事例を追った。
面的な小さな不動産開発マイクロディベロッパー
地元・神奈川県小田原市を拠点に空き家や空き店舗の再生と、エリアブランディングを手掛ける旧三福不動産(神奈川県小田原市)。国土交通省が主催する「第3回 地域価値を共創する不動産業アワード」で、最高賞の「アワード大賞」を受賞した。
2014年設立の旧三福不動産は、不動産仲介業や空き家・空き店舗の再生事業、オウンドメディアを通じたエリアブランディング、宿泊業の企画・運営などを手掛けてきた。特に駅から離れた空き家・空き店舗が増える「路地裏」のようなエリアにおいて、創業者や再生事業へ賛同する人を増やす取り組みを実施してきた。空き物件を改修・リノベーションで再生し、企業や創業者、個人事業主などを誘致。小さくても良い店が集まる地域へブランディングすることで、再び地域の魅力が高まり、近隣から人や企業、資本も呼び込む流れを生む。元カフェレストランをゲストハウス&バーに再生するなど、建物の個性を生かしたリノベーションで、建物だけでなく新旧の魅力が凝縮したエリアも再生させてきた。
またメディアの活用にも注力。ウェブサイトを通じて物件情報にとどまらず、エリア紹介や店舗インタビューなどの多彩なコラムを発信。路地裏的狭小エリアの魅力や小田原全域の魅力を全国へ発信してきた。結果、出店希望者や移住希望者を広く集めることに成功。120件以上の新規事業開設件数と、200組以上の移住者を実現した。加えて行政(小田原市)や商工会議所、信用金庫とも連携し、空き店舗活用や創業支援も展開してきた。空き店舗向けの補助金制度の構築、商工会議所と協力し創業者支援事業・制度開始(現在は終了)へ働きかけるなど、地域全体の再生を視野に入れた活動を続けてきた。
今回同アワードへ応募した理由は、自社の活動をもっと広めることで小田原エリアの再生に寄与しつつ、そのほかの地域にも同様の働きかけを行っていきたい思いがある。今回応募した国土交通省主催の「地域価値を共創する不動産業アワード」は、不動産業者・不動産管理業者が行ってきた地域課題の解決や地域価値の創出に貢献する取り組みを表彰する制度。旧三福不動産の取り組み姿勢とアワードの目的が近い内容であったため、応募につながった。
代表取締役の山居是文氏は「これまでに手掛けてきた新規事業開設および空き家活用件数と移住者数、オウンドメディアの活用、その他団体との協力実績、独自のイベント開催などが評価され受賞につながったと思います。当社は創業後から小規模な空き店舗や空き家をリノベーションし、個人店主による出店を支援してきました。面的な小さな不動産開発により、エリアの価値を高め再生していく事業を当社では『路地裏マイクロディベロッパー』と呼んでいます。行政等がこれからの地方都市におけるエリアブランディングの成功実績や模範事例を模索しており、当社のような『路地裏マイクロディベロッパー』の取り組みが上手く合致したことも受賞に影響しているでしょう」と見解を述べた。
今後も旧三福不動産は開業・移住支援を進めていく方針だが、投資事業としての形成も視野に入れる。具体的には投資家から投資を募り、空き家・空き店舗等の不動産の再生や創業支援も事業化を目指す。小田原に移住したい、Uターンして独立したい等のニーズも高いため、その様な需要を見据えた不動産の投資事業開始を計画している。同時に前述の取り組みを他エリアにも支店を出して、さらに広げていくことも想定している。今回の受賞がさらなる事業成長の1つとなるだろう。
数年で稼働率98% 再生モデルとして評価
情報都市(大阪府泉佐野市)は地元・泉佐野市を中心に、不動産の仲介・売買・保有運営・管理・再生事業等を手掛けている。4月17日には公益社団法人日本都市計画学会関西支部(京都市下京区)が主催する「2024年度 第27回関西まちづくり賞」にて、同社の団地再生プロジェクトが受賞した。まちづくり会社、ひとは(大阪府泉佐野市)との共同受賞となる。
同社が手掛けた団地再生プロジェクトは、2015年にUR都市機構(横浜市中区)から賃貸住宅団地「佐野湊団地(以降、さのみなと団地)」を取得後に、大規模バリューアップと継続的に地域活性化等の取り組みを行った事例。元々同社は泉佐野市を含む「りんくう地域」を中心に、不動産事業と並行して地元地域への社会貢献や活性化等にも注力してきた。りんくう地域は、大阪府の泉佐野市・田尻町・泉南市などが該当する大阪府の副都心のひとつ。市内や関西空港へのアクセスに優れており、ビジネスと暮らしの双方に適した地域である。
取得した「さのみなと団地」は1号棟と2号棟による2棟構成。総戸数は329戸。300戸超の団地を民間企業が譲り受けた事例は同物件が日本初。「さのみなと団地」は築約50年の団地。南海本線「井原里」駅より徒歩12分に位置し、団地を中心に店舗等の生活関連施設が整備されている。取得時の空室はおよそ140戸。立地や物件の持つポテンシャル等は高かったものの設備や意匠性といった機能面が老朽化していた。取得後すぐに機能面の改善として、設備をはじめとする団地の改修に着手。特に2020年11月からは総工費2・2億円の大規模修繕工事を実施し、翌年7月に完了。明るく清潔感も感じられる外観に生まれ変わった。取得時の入居率は58%であったが、改修から数年後には9割強にまで回復。以降、長年高稼働を維持してきた。
今回受賞した「2024年度 第27回関西まちづくり賞」は、調査・研究、計画・設計、事業面で顕著な業績を上げ、都市計画の進歩・発展に貢献する優れた取り組みに贈られるもの。支部会員が関与または推薦するプロジェクトの中から、特に社会的意義が高く画期的と認められるものが選定される。受賞の決め手は300戸を超える団地として国内初、民間企業がUR都市機構から譲渡を受けた事例であること。また再生プロジェクトはリノベーションのハード面と、コミュニティ強化によるソフト面の2軸で進めてきたが、その取り組み内容が今後の地域再生モデルとして参考となる点も評価された。
広報企画室の河島光佑氏は「団地から車で5分ほどの近接性を生かした管理体制のもと、日常的な見回りや住民とのコミュニケーションを重視する姿勢が入居者の安心感や丁寧な対応につながり、現在は9割を超える高い入居率を維持できています。また団地単体の再生にとどまらず、空き家や古民家などの地域ストックの利活用にも取り組んでおり、エリア全体の価値向上につながっている点も評価されたと思います」と語った。同社では引き続き「さのみなと団地」の運営管理を行い、団地の賑わい創出と魅力維持を継続していく。