週刊ビル経営・今週の注目記事
毎週月曜日更新
三菱重工 「建物版ABS」の耐震システム開発 旧耐震ビルのリフォーム需要開拓狙う 層間に制動力働かせ揺れを吸収
1996.07.01 17:22
三菱重工ではビルの各階ごとに設置したモーターで動くブレーキを使って、地震動の揺れを抑え込むエネルギー吸収型の新制震システムを開発した。阪神大震災以降、耐震改修促進法の制定もあり、旧耐震性向上が社会的にも大きなテーマとなっている中で、既存ビルへの後付けが可能な有力システムとして注目されている。
新開発のシステムは、ビルの層と層の間に制動力を働かせて地震による揺れを止めるもの。仕組みは下図の通りで、建物の柱と梁で囲まれたフレーム野中にブレースを組み、その内部に装置を設置する。
制御装置はサーボモーターで動くブレーキパッドで金属板を締め付ける機構となっている。地震時にはその揺れをセンサーで検知し、これを元に揺れを最も効率良く止めるための制御力をコンピュータが計算して、制動力を時々刻々制御する。いわば建物版のABS(アンチロックブレーキシステム)とでもいう方式だ。また”てこ”の原理を利用した増幅機構により、小さな制動装置で居間に大きな制動力を生み出す。
三菱重工では従来より横浜ランドマークタワーなどの超高層ビルで風揺れ防止システムの実績があり、阪神大震災時に計測した浜松アクトタワー(静岡県)でのデータで地震に対しても高い効果を発揮できたことから、この原理を発展させたもの。
この新制震システムの特徴のひとつは高層ビルには適用できない免震装置のように対象ビルに制限がなく、既設ビルにも容易に設置できる点。
「ブレース補強に比べて設置面数は約半分で済み、装置の幅も30cm程度と薄いため、壁や窓枠の中に設置できます。間仕切りや柱を増設する方法と比べてもテナントビルに適しています」(同社鉄構装置部・柴崎氏)。
設置費用の目安は10階建てビルに80設置した場合で、一機当たり400万円程度。一度設置すれば大地震後も部品交換の必要もなく、また設置工事のコストも低く抑えられるため、トータルで見た場合は経済的なシステムだ。
三菱重工では年内に3棟前後の受注を見込んでいる。