不動産トピックス
【11/3号・今週の最終面特集】リノベーションの新潮流

2025.11.04 11:12
完全定額・間取り自由なリノベーション新プラン「BASE」を提供開始
新聞販売店をアパートメントホテルに再生 1室9名まで宿泊可能な施設へ
リノベーションが挑戦の時代を迎えている。定額制リノベーションサービスが価格の透明性とデザイン性の両立に挑み、かつての新聞販売店は街の記憶を宿したアパートメントホテルへと生まれ変わった。既成概念にとらわれないこれらの取り組みは、これからのリノベーションを考える上で多くの示唆を与えてくれる。
透明度の高い料金設定 間取りの固定概念を見直す
「ゼロリノベ」を展開するgroove agent(東京都港区)は、6月1日より完全定額制リノベーションプラン「BASE」の提供を開始した。
同社は2011年に創業。リノベーション需要の高まりを受け住宅分野へ参入した。取締役の西村一宏氏は「日本人の家の買い方にショックを受けました。家を買うときにお金を借りすぎている、ファイナンシャルプランが上手くいっていない家庭も多いです」と指摘。住宅購入は多くの人にとって一生に一度の経験だが、売り手と買い手の知識や経験の差によってミスマッチが生まれてしまっているとし、「そういった家の買い方はやめませんか」と提案する。
そうした中、「ゼロリノベ」の仕組みを整備。最初は思いどおりにいかないこともあったが、1300件以上の施工実績を重ねる中で、どのような価格や仕様にすればよいのか、予測がつくようになった。
新プラン「BASE」では、これまで慣習的に発生していた予算の超過をなくすことを目指す。業界では、従来のリノベーションでは工事中の想定外の工事やオプション追加によって、当初予算の130%を超えるケースが慣例化している。そうした予期せぬコスト増を防ぐため、完全定額制を取り入れた。アスベストの除去や図面との相違といった追加工事が発生しても、追加料金は発生しない。
「BASE」は1㎡で固定の金額となり、ホームページで部屋の広さを入力すると料金がすぐにわかる。なお対応しているのは40~120㎡のマンションの部屋。それ以外は別途問い合わせが必要。スケルトンリノベーションを採用。また標準の仕様で満足度の高い設備を選ぶことができる。
間取りが自由であることも特徴の一つ。例えば「寝室は6帖が当たり前」といった固定観念を見直し、寝るためだけの部屋に6帖の広さが必要かを再考する。収納を一カ所にまとめるなど、空間のロスを最小限に抑える設計を提案。コンセントやスイッチの位置も再検討し、入居者が自分でも気づいていなかったような「日常のプチストレスを解消する」ことをコンセプトに掲げる。実際の入居者からは「コーヒーを豆から挽いてゆっくり飲めるようになった」といった、丁寧な暮らしになることで生活が豊かに変わったという声も寄せられているという。若年ファミリー層や30代、単身女性などの層から支持されている。
現在、「BASE」での施工は4件が完了・引き渡し済み。新たに3件の申し込みも入っている。今後について西村氏は「パッケージの選択肢を増やしつつ、価格の透明性は失わないようにしたいです」と話す。
1棟丸ごとリノベーション リネン室をエリア共用で使用
読売新聞東京本社(東京都千代田区)が所有し、読売不動産(東京都千代田区)が管理していた元新聞販売店を、matsuri technologies(東京都新宿区)がリノベーション。読売不動産がmatsuri technologiesと賃貸借契約を締結し、アパートメントホテル「MT 中野ビル」として8月に開業した。
場所は東京都中野区中央4丁目で、JR「中野」駅から徒歩6分、東京メトロ「新中野」駅から徒歩10分と交通アクセスに恵まれた立地。鉄骨造陸屋根地上3階建て。
もともとは新聞販売店だったが、2023年2月に閉鎖。閉鎖後の再活用を模索していた中で、今回アパートメントホテルとして再生することとなった。
建物は3階建てで、1階をリネン室、2~3階を客室としてリノベーション。それぞれ1フロア1室の構成で、1室に最大9名まで宿泊が可能。広々とした室内が特徴で、2家族など大人数での滞在もできる仕様となっている。2階は3LDKで、89・74㎡。3階は4DKで89・74㎡。全体として、「個の空間」を意識した設計とした。ターゲットは主にインバウンドを想定しているが、現在は日本人の利用者も3割程度を占めているという。
当初はフロアごとに分割して貸し出す案や、シェアハウス、1階をカフェや飲食店にする案など複数の選択肢が検討された。費用対効果を考慮し、1棟丸ごとをホテルとして活用する現在の形となった。
読売不動産の事業開発室長の佐々木祐輔氏は「本物件を貸し出すにあたって、宿舎部分のみを借りたいという話や1階だけをコインランドリーにしたいなどのご要望はいただきましたが、なかなか1棟丸ごとを借りてくださる方が見つかりませんでした。そのような中でお名前を存じていたmatsuri technologies様にお話しをさせていただいたところ、立地や条件がちょうどぴったりだとなり、今回いいお話でまとまったということになります」と経緯を語る。
特徴的なのは、1階をリネン室とした点だ。matsuri technologiesが管理を行う中野・新宿エリアの他物件とも共用できるように設計されており、運用効率の向上にもつながっている。
もともと2階は男性宿舎、3階は女性宿舎として使用されていた。3階は過去にリフォームが入っていたことから比較的状態が良く、軽微な補修で済んだ。一方で2階は経年劣化が進んでおり、床や壁の張り替えなど大規模な修繕を行った。2階にあった食堂をリビングとし、特色ある部屋として再生した。
matsuri technologiesのデザイン&アプリケーション部 部長の宇津木里美氏は「我々は内装を手掛けましたが、段差の解消や、インバウンドの方は土足で部屋に入ってしまうので、そのあたりの区分けをどのように作るかを考えた点などが工夫した点になります」と話す。
多様な利用者に対応した設計は、今後のリノベーション市場でも重要なポイントとなりそうだ。



