不動産トピックス
【9/1号・今週の最終面特集】不動産業界で広がるDX化の波

2025.09.01 10:44
人手不足問題の解消に貢献 効率化でコア業務への集中にも寄与
正確な距離測定 世界初の技術も
AI(人工知能)に代表される先端技術を搭載したIoT機器やサービスは、ビジネスのあらゆる現場で活用の場面を増やしている。不動産業界も例外ではなく、ステレオタイプな業務フローからの脱却を実現し、業務効率化や企業の成長支援をバックアップする商品やサービスが次々登場している。
スマホのカメラ機能で瞬時に3Dスキャニング
nat(東京都中央区)は空間を3DスキャニングするAI測量アプリ「Scanat」を2022年にリリースし、建築・リフォームの現場や道路・トンネル等のインフラの測量作業のDX化を支援。これまでの累計導入社数は700社を超える。
「Scanat」は、スマートフォンやタブレット端末に搭載されているLiDARセンサー(光を照射して対象物との距離を測定する方法)を活用し、空間の3Dスキャニングを瞬時に行うというもので、撮影した画像内の直線や曲線の長さ、任意箇所の面積を誤差1%以内で計測する。代表取締役社長の劉栄駿氏は「ミリメートル単位で対象物の測量ができる3Dスキャニングアプリとしては『Scanat』が世界初です」と自信を見せる。
現地調査から図面作成までにかかる人員や工数を、「Scanat」を活用することで大幅に削減することができるため、建築や設計、不動産といった業種で採用する事例が増えている。このほかトンネルの周長などの人の手で計測することが困難な箇所も「Scanat」は撮影するだけで容易に計測ができることから、自治体からの引き合いも多いとのことだ。
距離を計測するアプリケーションはクラウド上でデータを管理・処理するサービス提供の形態が一般的であるが、「Scanat」はネットワーク環境がない場所でも利用することができ、高いデータセキュリティ性もサービスの大きな特徴といえる。
「Scanat」の高い技術的完成度や独自性などが評価され、2023年には「令和5年度 東京都ベンチャー技術大賞」で優秀賞を受賞。このほか、国土交通省が運営する新技術情報提供システム「NETIS」にも登録されている。劉氏は「今後は町田ひろ子アカデミーの買収を通じてインテリアコーディネーターの育成にも積極的に取り組み、空間コーディネートのコンサルティングを企画から設計・デザインまでトータルで提供できる体制づくりを目指します」と意気込みを語った。
コスト・トラブルリスクを削減 精算機レスの駐車場・駐輪場
遊休地の有効活用で検討されることの多い時間貸しの駐車場や駐輪場。これらの運営には高額な精算機の導入コストに加え集金や機器メンテナンスにかかるコストの負担、現金の盗難リスクなど多くの課題がある。近年ではこれらの課題解決策としてカメラやセンサーで車両を管理する「フラップレス方式」を導入している施設もあるが、物理的なロックがないためカメラ管理による運営方法では、料金が未払いのまま清算を完了したと誤認して車両が出場するケースや不正利用への対策が必要となる。一方で、働き方の多様化やカーシェアの普及に伴い駐車場・駐輪場の需要は増大。都市部の狭小地や遊休地を新たな収益源として活用したいというニーズが高まっている。CYBER SEVEN(東京都新宿区)では、精算機を不要としIoT技術を活用した、物理ロックとスマートフォン決済を組み合わせたパーキングシステム「SEVEN AI CLOUD」を開発。パーキング機器「PARK WING」・「CYCLE WING」を組み合わせた次世代型の駐車場・駐輪場運営を提案している。
「SEVEN AI CLOUD」は、パソコンやスマートフォンから各拠点の売上や稼働状況をリアルタイムに一元管理するクラウド型システム。過去の売上状況は1日単位で記録され、遠隔でのロック・解錠操作も可能となっている。駐車場・駐輪場は曜日や周辺地域でのイベント開催、当日の天候により売上が日によって変動する。同システムでは売上記録のほか当日の天気やイベントの開催実績なども記録されるため、蓄積したデータを分析して利用予測に合わせた料金設定の変更が可能となっており、最適な駐車場・駐輪場運営をサポートする。
駐車場用のフラップ「PARK WING」と駐輪場用のラック「CYCLE WING」は、インターネット接続によって稼働や売上の状況をリアルタイムに更新。利用者は機器にある専用のQRコードを読み取り、スマートフォン上でクレジットカードやQRコード決済による料金精算を行うことでロックが解除される。精算機が不要になることで、利用者は出場時に車室・ラックの番号を記憶あるいは確認のための移動が不要となり、スムーズな精算・出庫ができる。また、運営側は精算機の導入コストを削減できるだけでなく、精算機の硬貨・紙幣詰まりや故障といったトラブルに見舞われることなく、運営の手間を大幅に削減することができる。同社の試算によれば、2台分の駐車場の場合では従来のように精算機やフラップといった機器を設置すると導入コストとして約130万円を要したが、「SEVEN AI CLOUD」では30万円程度で導入が可能だという。駐車場・駐輪場の運営は精算機などのハードウェアに依存する運営手法から、蓄積されたデータを活用して最適な運用を目指すソフトウェアを軸とした運営手法へと今後進化を遂げそうだ。
エフステージ 買取再販業者向けシステムを現場視点で開発
エフステージ(東京都文京区)は、同社としては初となる不動産テック事業として買取再販事業者向けクラウド型システム「内見予約ナビ」を開発し、8月より外部販売を開始した。「内見予約ナビ」は同社が自社開発したDXツールで、社内運用による改善を繰り返し現場の声を反映した機能が搭載されている。
不動産業界は他の業界に比べDX化が遅れているとされており、従来からの習慣やアナログな販売手法が現在も主流となっている。エフステージでは2022年5月に「内見予約ナビ」のもととなる自社開発の内見予約システム「アライズNAVI」の自社運用を開始。この3年でシステム導入による社内の作業効率化および業務負担軽減を実証できたことから、今回の外部販売の開始に至った。
「内見予約ナビ」は物件確認・内見予約・広告承諾を自動化し、仲介業者情報と販売状況を一元管理できる買取再販業者特化型のDX支援ツールである。これにより、受電やファクス対応を自動化し、コア業務に集中できる環境を実現することができる。また、値下げ判断に役立つ内見件数推移の一覧表示機能や仲介会社への販促・仕入れ促進メールに一括配信機能などがあり、価格変更や販促活動の効率化をサポート。仲介業者が利用する際の利便性にも配慮し、情報登録や内見予約が直感的な操作で完結できるよう設計されている。操作手順やインターフェースは極力シンプルなものとし、買取再販業者と仲介業者、双方の使いやすさを追求した。