不動産トピックス
【8/25号・今週の最終面特集】中小規模のオフィスビルにおける新潮流

2025.08.25 11:32
転貸で行う新たなノンアセット事業 「西武信用金庫恵比寿ビル」6階フロアを賃借 セットアップオフィスへ改装
恵比寿で年々増加傾向にあるベンチャー・スタートアップのオフィス需要。受け皿となるオフィスは限られ、特にセットアップオフィスの人気は高い。その需要に着目し、ビルオーナーの稼働率アップへ協力しつつ、街への企業定着にもつながる新たな動きが見られる。
物件の競争力UPに貢献 セットアップ需要に応える
サッポロ不動産開発(東京都渋谷区)は、西武信用金庫(東京都中野区)が所有する「西武信用金庫恵比寿ビル」6階フロアを賃借し、内装・家具付きのセットアップオフィスへ改装した。
同ビルは東京メトロ日比谷線「恵比寿」駅徒歩1分、JR「恵比寿」駅徒歩3分に位置し、交差点角地に建つ視認性の高い複合ビル。地上9階地下1階建て。1994年竣工。西武信用金庫恵比寿支店と賃貸オフィスから構成される複合ビルで、地下1階~4階までは恵比寿支店と西武しんきんキャピタルが使用し、5~9階を賃貸オフィス区画とする。
6階に入居していた既存テナントの退去を受けて、サッポロ不動産開発は西武信用金庫に新たな貸し方としてセットアップオフィスを提案。同社が西武信用金庫に代わり6階の内装工事を実施。セットアップオフィスとすることで、築年数の経過した物件のリーシング競争力を高めるとともに、恵比寿で年々増加傾向にあるベンチャー・スタートアップのオフィス需要にも応えることができた。
手掛けた6階は貸室面積170・18㎡(51・48坪)。複数の島型のデスクと席を設け、眺望が望める窓際には外を向いてデスクワーク等ができる席やゆったりと仕事ができるソファー席、数人でグループワークができるファミレス席も設けた。会議室は2部屋。オンライン等の需要も想定したウェブブース1室も用意。個別空調で、床はOAフロア。男女別トイレとなっている。
サッポロ不動産開発は当区画を賃借し、第三者へ貸し出す。賃借における客付けや入退去の対応、管理業務を担当する代わりに、一般的なオフィス賃料よりも高いセットアップオフィスとすることで転貸での差額分が同社の収益となる。一方で、西武信用金庫はリーシングや管理業務を行うことなく、安定した賃料収入と保有物件の価値向上を実現できる。
執行役員 投資運用事業本部長 兼 企画部部長の藤原聡氏は「恵比寿エリアでは『発芽するワークプレイス』をコンセプトとした、コンパクトサイズのオフィスビルシリーズ『Sreed』をはじめ、複数の自社保有物件でセットアップオフィス化を行ってきました。今回は蓄積してきたノウハウやマーケット等を熟知した知見も生かす取り組みとして、またノンアセット事業の新しい展開も見据えて西武信用金庫様へ提案しました。セットアップを好むベンチャー・スタートアップは、入居後すぐに事業開始できる利便性や従業員の働き方における満足度向上を重視する傾向があります。敷金を抑えるサービスも利用できるため、入居費用を抑えながら移転後は積極的に事業へ投資できます。一方オーナーは空室のダウンタイムが発生せず、安定した賃貸収入とスタートアップを対象とした貸し方の差別化も実現します。ビルの資産価値向上策としても魅力的だと思います」と語った。
同オフィスで開催されたプレス向けの発表会において、西武信用金庫の高橋一朗理事長は「当社は西武しんきんキャピタル(西武信用金庫100%出資)による20年以上もの直接的な支援、スタートアップ向け投資ファンドへのLP出資を通じた支援など、スタートアップに対する積極的な支援活動を行ってきました。本格的な支援事業としては23年前に開始。当時はまだインキュベーションという言葉も無い頃に『金融』の立場として支援を始めました。私は地域金融の使命として『地元企業を手助けすること』だと思っています。これまでにおよそ2万社へ融資しており、彼らへの支援活動を通じて、恵比寿へのまちづくりや地域貢献にもつなげていきます」と述べた。
サッポロ不動産開発は1994年の「恵比寿ガーデンプレイス」開業以来、約30年にわたり恵比寿のまちづくりを推進してきた。一方、西武信用金庫はスタートアップ支援に注力しており、両社の方向性が重なったことで今回の協業が実現した。今後サッポロ不動産開発は、当スキームを恵比寿に物件を保有する他のオーナーにも提案していく。恵比寿には事業会社や個人が所有する築年数の経過した比較的規模の小さなビルが多いが、近年では所有するビルの競争力が低下してしまっているにも関わらずリノベーションや建替えを行うには金銭的な負担も大きく所有者にはノウハウがない。そういった地域的な課題を解決するのも「恵比寿のデベロッパー」を標榜するサッポロ不動産開発にとって重要な取り組みと位置付けているからだ。
本取り組みは同社にとって「ノンアセット事業」としてだけでなく、恵比寿全体のブランド力を高める取り組みにもなると考えている。不動産オーナーもスタートアップ等をテナントに誘致したいが、企業の与信から断念することは多い。同社が賃借人となることで信用力を補完できる。同事業を推し進めることでベンチャー・スタートアップに強い街・恵比寿の形成につながると同時に地域課題の解決、エリアのブランド力の向上などにつながると見ている。
今回はサッポロ不動産開発が始めた事業だが、同社以外にも過去のセットアップオフィスでの実績を生かして、転貸事業を始めた企業が見られる。オーナーの賃貸区画を普通借家契約で借り、外部には定期借家契約で貸し出すなど、同ビジネスへ参入・開始する企業は今後増えることが予想される。
一方オーナーは毎月安定した収益を確保できる。契約も長期間で、ビルの特徴付けや付加価値形成にもつながりやすい。またこれら事業者の場合、近隣相場よりも割安で契約することはない。相場に適した賃料で契約することが多い。オーナー注目の事業である。
主要オフィスエリアから少し離れた場所で増加
都内の主要オフィスエリアでは、セットアップオフィスの需要の高いエリアや急激に供給量が増えているエリアがある。昨今増えている地域が日本橋エリア。「東京」駅に近く、羽田・成田空港へのアクセスも容易。大手企業の本社機能が集積しており、近隣の中小ビルには関連企業や取引先などが入居する。昨今のセットアップオフィスでは主にIT系やコンサル、士業などの入居が多く、ここ数年は大手企業の分室やプロジェクト用に借りる動きも見られる。デベロッパー等が展開する新築のコンパクトオフィスビルのブランドでは、ほぼ確実にセットアップオフィスの採用が散見される。オーナーには初期投資が発生するが、早期の成約につながるなどメリットも多い。
また増えているのが、主要オフィスエリアから少し離れた場所に建つオフィスビル。都心5区内でもオフィス需要がそこまで高くない場所や最寄り駅からのアクセスに多少時間を要する物件での採用が増えている。オーナーは実績を持つオフィス仲介業者などと協力し、ターゲットの選定や内装のレイアウト構築など、綿密に行うことが成功の秘訣と思われる。既に場所によっては成約に苦労するセットアップオフィスもあるなど、優勝劣敗が進んでいるようだ。