不動産トピックス
【7/28号・今週の最終面特集】コンパクトオフィスビルシリーズの最前線

2025.07.28 12:08
採用支援を見据えたオフィスづくり
共用スペースの充実必須 セットアップオフィス人気
コロナ前から需要のある中小規模のオフィスビルブランドやシリーズ。新規参入企業は増えつつも以前から展開する他社ブランドとは違った、差別化やトレンドに合わせた機能性・快適性・柔軟性等が見える。これらビルを知ることで最新のトレンドも把握できる。
5月15日竣工を迎えた「スイテ新御徒町」
阪急阪神不動産(大阪市北区)が着手した新築の中規模オフィスシリーズ「SUITE(以下スイテ)」。第1号物件となる「スイテ新御徒町」が5月15日に竣工を迎えた。
スイテは、首都圏を対象に新築物件として開発する中規模オフィスビルのシリーズ。コンセプトは「働く場に、おもてなしを。めざすのは永く愛されるオフィス」。テナントやワーカーにとって「価値を感じられる空間」の提供を目指す。コンセプトを構成する3つの要素には、街ごとに仕立てる、多視点を取り入れる、シーンごとの機能が最適化されたオフィスとした。物件ごとに外観やスペックには個性を持たせ、多様なニーズに対応可能な柔軟性と環境性能を備えたオフィスを供給する。規模は延床面積約300坪以上、敷地面積で50坪以上を想定し、開発地は都心オフィスエリアを中心に今後も展開していく。
「スイテ新御徒町」は東京都台東区台東4丁目、春日通りと清洲橋通りの交わる交差点角地に立地。最寄りの都営地下鉄大江戸線・つくばエクスプレス「新御徒町」駅からは徒歩1分以内。東京メトロ日比谷線「仲御徒町」駅からは徒歩7分、JR山手線「御徒町」駅などからは徒歩8分と、複数路線が利用可能。視認性の良さとアクセス性が強み。エリアでは久しぶりの新築オフィスビルの供給となった。規模は地上8階建て。延床面積は3963・07㎡。1階は店舗とエントランスホールで、2~8階がオフィス。基準階貸室面積は466・50㎡(141・11坪)。
特徴はファサードデザイン。新御徒町の持つ「職人の精神が息づくものづくりと歴史を継承するまち」といった個性を、外観・内観などのデザインに落とし込んだ。形状や材料も吟味することで、立地の特性を最大限表現できた。エントランスには、なぐり加工の木材を採用。かつ外壁は1つずつの手作業で特殊塗料を実施。内壁に木調の意匠も積極的に採用するなど、独自性も図っている。
フレキシブルエリア充実のセットアップオフィス
最新スペックで構築したオフィスフロアは無柱空間。大通りに面しているため眺望が魅力。2階はセットアップオフィスを採用し、ショールームとしての機能も有する。セットアップは執務エリアだけでなく、会議室や自由に利用できるラウンジなども含めて構築したフルセットアップ。ラウンジを中心としたフレキシブルエリアは、休憩や社員同士のコミュニケーションを図ること、グループでの作業にも適している。執務エリアにもファミレス席やビッグテーブル、社内向けのプレゼンテーションにも活用できるハイカウンター席などを配置。業務内容によって柔軟かつ自在に対応できる機能性と、ワーカーがオフィスに足を運ぶことで得られる生産性向上や業務における満足度も追求した。
開発事業本部 技術統括部 首都圏グループの合田宏明氏は「『スイテ新御徒町』は働きやすさと、地元企業に好まれる造りをイメージしてブランディングを行いました。新御徒町周辺では新築ビルの供給が少なかったこともあり、リーシングは順調に進捗しております。拡張や増床に前向きな企業が多く、今後の採用活動も視野に入れての新築ビルへの移転ニーズも影響していると思います。セットアップオフィスは入居企業の成長具合に応じてフレキシブルに対応できる、弾力性のある席配置にもなっていますので、成長スピードが早い企業にも適しています」と語った。ワーカーのサードプレイスとなる屋上庭園も用意。リフレッシュも兼ねた仕事場として使用できる。
9月末には新横浜、その先は東京都中央区日本橋人形町でスイテの開発が控えている。新たにリノベーションオフィス「enSUITE(エンスイテ)」も開始するなど、今後も積極的に首都圏で中規模ビルのシリーズ展開を進めていく。
コンパクトオフィスシリーズ第1号「ASOOM新橋」
旭化成ホームズ(東京都千代田区)が開発を進めてきた、コンパクトオフィスシリーズの第1号「ASOOM新橋」が5月末に竣工した。
ASOOM(アスーム)は「Office as a Home」をコンセプトとした次世代型のコンパクトオフィスブランド。「居心地の良さ」×「ABWの推進」×「環境性能」の3つを兼ね備え、かつ相互にしっかりと機能。「居心地の良さ」は、シンク(キッチン)付きカウンターや屋上テラス、自然換気(窓開閉)、自然光の取り入れ(ライトシェルフ)等を実施。まるで家にいるような、ストレスフリーのオフィス空間を創出した。
「ABWの推進」では、業務内容や気分に応じて働く場所を自由に選べるオフィス環境を構築。集中・交流・リフレッシュなどの多様なニーズに応えることで生産性も向上する。さらに「環境認証」は、積極的にBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)や「CASBEE」、「DBJ Green Building」認証等を取得。これら環境認証制度を取得することで、持続可能な社会の実現に貢献する。
開発第一事業本部 次長の小暮蔵太氏は「従前から非住宅分野への進出を検討していました。4~5年前に第1号物件の『ASOOM新橋』の土地を取得。その後すぐにコロナ禍となり、働き方は大きく変化しました。テレワークと出社を組み合わせたハイブリッドワークが一般的となったことから、当ブランドのコンセプトも単なる『働く場所』を提供するオフィスではなく、社員がリラックスし、生産性を高めることのできる『居心地の良いオフィス』を目指して誕生しました」と語った。
住まいづくりのノウハウ オフィスビルに落とし込む
ASOOMには旭化成ホームズが長年手掛けてきた、住まいづくりのノウハウ・知見等を落とし込んだ。コンパクトオフィスビルのブランド展開としては後発だが、ハウスメーカーとしての経験を生かし、居心地の良さを設えることで差別化。また効率的な空間利用と洗練されたデザインにより、限られたスペースでも最大限の生産性を発揮できる。対象エリアは都心3区。基準階貸室面積を50坪程と想定し、用途は基本オフィス。リーシング(満室稼働)後は売却も想定する投資用開発物件である。
竣工した「ASOOM新橋」は、都営地下鉄三田線「御成門」駅から徒歩4分、JR「新橋」駅からは徒歩9分に立地。地上14階地下1階建て。延床面積は2378・48㎡。基準階貸室面積は約45坪。貸室内にシンク付きのカウンターやバルコニーを設置。また地下フロアには共用ラウンジやリフレッシュルームを構築。事前に予約ができる会議室と個室ブースを造り、いつでも利用できる多彩なフリースペースも設けた。仮眠室もあるため、本格的な休息・リフレッシュもできる。東京タワーを間近に望むテナント専用のルーフテラスも屋上に設置。ベンチは豊かな緑に囲まれ、働く人の気分転換やコミュニケーションもサポート。共用Wi―FiとOAコンセントを備えたため、ワークスペースとしても機能する。
小暮氏は「現在数フロアの成約が決まっています。シェアオフィス等からの成長移転が目立ち、リクルート強化も視野に移転する企業が多いです。自社社員のオフィス環境における満足度向上やパフォーマンス向上を意識して入居を決めているため、当社のコンセプトや思いがしっかりと届いた形だと思いました」と語った。今後も積極的に展開していく。