不動産トピックス

【7/21号・今週の最終面特集】賃貸ビル経営のトレンドを追う

2025.07.22 10:20

オフィス移転先の選択肢絞られ貸し手優位が継続
コロナ収束後の増床ニーズがマーケットを下支え
 賃貸オフィス市場の足下の状況は、既存物件の建替えや大型開発による新規床のコンスタントな供給と、コロナ禍以降の働き方に合わせたオフィス構築に伴う移転需要のせめぎ合いの中、安定傾向を維持している。こんな時こそ、オフィスに求められているものをしっかりと認識することが重要だ。

成約賃料をもとに実態に近いデータ分析
 企業のオフィス移転支援や仲介、内装デザイン・設計、リーシング業務などを手掛けるヒトカラメディア(東京都世田谷区)は、2025年度版の「オフィス坪単価マップ」を制作・公開した。この「オフィス坪単価マップ」は、東京都心部に立地するオフィスビルの空室フロアをヒトカラメディアが調査して製作したもの。同社は2018年から毎年作成、21年から調査結果を公表しており、2025年度版は6月10日に発表された。
 賃貸オフィスの仲介会社の中には、自社のデータ等を集計して特定エリアのオフィス賃料や空室率の推移を公開している。「オフィス坪単価マップ」を監修したヒトカラメディアの企画営業部事業部長の木幡大地氏は、データとして公表される賃料と実際の相場観には多少の違いがあることに違和感を覚えたことが、「オフィス坪単価マップ」製作のきっかけになったという。
 「賃貸オフィスの賃料は募集賃料と成約賃料の2つに分かれます。世間に公表されている賃料相場は募集賃料をベースに算定していると仮定し、実際の成約に至った際の成約賃料をベースとしたデータをまとめることで、よりエリアの賃料相場の実情に近づけるのではないかと考え、『オフィス坪単価マップ』の製作を始めました」(木幡氏)
 木幡氏は同社のネットワークを中心に東京23区内のオフィスエリアを対象とし、100~300坪の賃貸オフィスビル約400棟の成約賃料の推移を調査。最新版となる2025年度版の調査結果によれば、東京のオフィスエリアは全体的に好調を維持していることが分かった。賃料は上昇傾向が続き、募集中の空室はその数を減らしている状況で、木幡氏は「1年前と比べると、移転希望の企業にとって移転先候補のビルの選択肢がかなり減ってきていると感じます。コロナ収束後のオフィス回帰の流れが今も続いており、企業の増床ニーズが高いことを裏付けています。例えば、目黒エリアのあるビルでは300坪のフロアで募集情報を出したところ、移転希望の問い合わせが殺到したとのことです。ビルオーナー側としては募集賃料を下げなくとも入居希望者が複数現れる中で、より条件の良い企業をテナントとして迎えることができ、状況は非常に良いと判断できます」と話す。

意外と高いアクセス性 緑も多く環境は良好
 東京都心の中で人気が集中しているのは渋谷エリア。募集の案件が少ないわけではないものの、成約までの期間は短く賃料も高い水準で成約に至っているという。またオフィスエリアとして突出した人気を獲得しているエリアでなくても、直近では需要が流れてきていることが今回の「オフィス坪単価マップ」では見てとれる。木幡氏が注目するのは、お台場・天王洲、勝どき、豊洲といった湾岸エリアだ。オフィス移転を検討する企業を湾岸エリアの物件に案内するケースも増えてきており、需要の高まりを肌で感じているという。
 「湾岸エリアの賃貸オフィスの坪単価は渋谷のおよそ半分。またフリーレントの設定が長いというのも特徴で、渋谷などでは2~3カ月程度が一般的である一方で、湾岸エリアの物件では12カ月のフリーレントを設定している物件もあります。固定費を抑えたい企業にとって湾岸エリアは非常に魅力的であるといえます」(木幡氏)
 湾岸エリアというと、都心の主要なターミナル駅から離れておりアクセスが不便というイメージが先行しがちであるが、木幡氏は「例えばお台場ですと、りんかい線を利用して渋谷・新宿まで30分以内でアクセスできます。賃貸オフィスは駅周辺に固まっているため、駅からオフィスまでの移動時間も合わせれば、実は都心のオフィスへ通勤するのと大差ありません」と、湾岸エリアの優位性を語る。都心のようにビルが密集しておらず、そのぶん地域内には緑が豊富で社員の健康面にも魅力の多いエリアのようだ。
 今後も主要エリアを中心に全体的なオフィス賃料の上昇傾向は継続すると木幡氏は分析する。また先述した湾岸エリアへの需要もますます高まっていくとする一方で、湾岸エリアの中でも人気の度合いに差が出てくる可能性を示唆しており、海を臨むロケーションやテナント向けの共用施設の充実など、ビル固有の特性がマーケットにおける優勝劣敗を分ける要因となりそうだ。


HATARABAがプロパティマネジメント事業を開始
オフィス戦略のヒントが得られる情報誌創刊
 オフィス移転のコンサルティングサービスを展開しているHATARABA(東京都渋谷区)は、ビルオーナーの収益最大化と管理業務の効率化を支援するため、6月1日よりプロパティマネジメント事業を開始した。
 同社のプロパティマネジメント事業は、入居者の募集から契約管理、建物の維持保全、賃料回収、トラブル対応まで、オフィスビルの運営に関わる業務を一括で支援するというもの。単なる賃貸ビルの管理業務の代行ではなく、ビルオーナーの収益性と資産価値の最大化を見据えた「戦略的プロパティマネジメント」を提供し、煩雑な日常管理の負担を軽減しながら空室対策や長期的な価値向上にも貢献する体制を構築する。
 具体的には、これまでオフィス仲介や移転支援、リーシング運営などで培ってきた知見や顧客との接点を生かし、「仲介業で得た豊富な入居者ニーズの把握力」、「エリア特性やトレンドに即したリーシング戦略の立案」、「物件の見せ方にこだわったセットアップやリニューアルの提案」、「テナント満足と物件価値向上を両立する実践的ノウハウ」をベースとして、物件の収益力・競争力・将来性を一体で高める運営支援を提供できる点が、大きな強みとなっている。今後はプロパティマネジメント事業を中核事業の1つへと進化させ、管理業務のDX化やESG・サステナビリティ対応を視野に入れた運営提案などにも対応していく構えだ。
 また同社は、数多くの企業のオフィス移転・戦略立案を支援してきた実績をもとに、専門性と現場視点を兼ね備えた「オフィス戦略のヒントが得られる情報誌」として、「HATARABA MAGAZINE(ハタラバマガジン)」を創刊した。本誌は、オフィスでの働き方やオフィス戦略に関する専門知識を集約し、社内外の有識者や現場の声を通じて、リアルかつ実践的な情報を届けることを目的に創刊された。
 創刊号の巻頭特集では、全国主要都市にネットワークを持つHATARABAの各支店長が一堂に会した座談会企画を掲載。東京・大阪・名古屋・福岡・札幌のオフィスマーケットと企業動向をもとに、オフィス戦略と働き方の変化を多角的に読み解いている。このほか、オフィス構築の現場で活躍するファシリティマネジメント担当者へのインタビュー企画や、オフィス移転を実施した企業の「その後」から、オフィス移転の前後で何が変わったかを紹介する企画などを掲載。同社によれば、今後も継続的に「HATARABA MAGAZINE」の発刊を行っていくとのことだ。




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