不動産トピックス

【5/19号・今週の最終面特集】不動産価値をアップ リノベーション事例集

2025.05.19 10:43

環境改修による不動産価値工場「ゼノベプロジェクト」
 既存物件に新たな価値を見いだすリノベーションは、明確なコンセプトやターゲットを設定することで、競合との差別化を実現することができる。不動産価値を高めるリノベーションの好例を紹介していく。

既存中小ビルのZEB化推進 第1弾は「日建ビル1号館」
 日本政策投資銀行(東京都千代田区、以下DBJ)とDBJアセットマネジメント(東京都千代田区、以下DBJAM)および日建設計(東京都千代田区)は、国内不動産の大部分を占める既存オフィスビルのエネルギーをゼロに近づける「ゼロエネルギーリノベーションプロジェクト(略称:ゼノベプロジェクト)」を推進している。今年3月には「ゼノベプロジェクト」の第1弾として環境性能を高める改修工事を進めてきた大阪市中央区の「日建ビル1号館」が竣工。「ZEB Ready」認証を取得した。
 わが国では、2030年度における温室効果ガスの排出削減目標を、2013年度比46%としている。その目標の達成に向けて、不動産業界では新築を中心に環境性能に優れた建材や設備の導入が積極的に進められている。「ゼノベプロジェクト」立ち上げの背景について、日建設計の経営企画グループ 事業企画室 横瀬元彦氏は次のように話す。
 「大規模ビルや新築ビルではZEBや先進的な省エネ化が図られているものの、ビルストックの大きな割合を占める中小規模の既存ビルで環境性能を向上させる改修が進むことで、オフィスビルのネットゼロ化が更に加速していくものと考えています」  その一方で、改修による環境負荷の軽減効果は不動産価値として十分に可視化されていないというのが現状。ビルオーナーとしても費用対効果が見えづらい改修への投資は、二の足を踏みやすいというもの。
 そこで、DBJ、DBJAM、日建設計の3社は、2022年に環境性能と不動産価値向上の両立を目指す「環境改修モデル」の構築と普及・浸透を目的として協業を開始し、2024年に「ゼノベプロジェクト」を始動させた。本プロジェクトを通じて「環境改修モデル」による既存ビルの実践実例を積み重ねることで、不動産市場と温室効果ガス排出量削減を結び付け、新たな市場の創出を目指す。
 「日建ビル1号館」は大阪中心部の淀屋橋エリアに立地するオフィスビルで、1968年の竣工。建物規模は地上7階地下1階。DBJと日建設計はDBJAMが組成・運用を行うファンドを通じて物件を取得し、改修工事を進めてきた。工事内容は、照明のLED化や空調機器の効率化、節水機能付きトイレへの改修、断熱性能の向上など、建物の特性に合わせた適切な省エネ改修を実施した。日建設計の設計監理部門 ダイレクターの小谷陽次郎氏は「高効率機への入れ替えを行うとともに、設備機器の運用実態を調査して空調や照明機器のダウンサイジングによる最適化も実施しました。『ゼノベプロジェクト』は既存の様々な建物に対応できるビジネスモデルを目指しており、汎用性の高い省エネ技術を組み合わせている点が特徴です」と話す。また一部の窓を開閉可能にし、自然換気を誰でもできるよう配慮することで、働きやすい環境を実現し働く人の快適性やウェルビーイングにも資する取り組みがなされている。
 改修工事はおよそ1年にわたって実施され、2024年に「ZEB Ready」認証を取得。標準的なビルと比較して約58%、年間137トンものCO2削減効果が見込まれている。「ゼノベプロジェクト」では改修による投資効果を可視化するため、CO2削減量に仮想的な炭素価格を掛け合わせることで、環境改修の経済的価値を試算。これにより、一般的には追加コストとして認知される環境性能向上のための改修投資について、投資による経済的な効果を可視化することで、ビルオーナーや投資家の投資判断材料の1つとすることが可能となる。今回の「日建ビル1号館」では、「ZEB Ready」を取得した改修工事を実施した結果、CO2削減効果による不動産価値上昇に一定の効果があることが確認できた。入居テナントの募集活動は既に進んでおり、前出の横瀬氏は「引き合いは強く、ビルの環境性能に対する企業側の関心の高さがうかがえます。賃料もマーケットの水準よりも上振れている状況です」と手ごたえを感じているようだ。
 今後、「ゼノベプロジェクト」は参画企業を拡大し、不動産業界のネットゼロ実現に向け各ステークホルダーとの連携強化に努める考えだ。前出の小谷氏は「当社としても、近年は改修設計の受注件数が徐々に増えてきています。これまで不動産や建築の世界ではスクラップアンドビルドの考え方が一般的でしたが、昨今は建築費高騰の影響もあり、建替えることが環境面や事業性などで必ずしも最適解であるとは言い難い情勢です。『ゼノベプロジェクト』を通じて、新築ほど費用を投じなくとも不動産価値と環境負荷低減の両立を実現できることを、より多くの不動産事業者に知っていただけたらと思います」と述べている。

シェアハウスをリノベ 地域に根差した複合型施設に
 東京都港区高輪の住宅街に、シェアオフィス、コワーキングスペース、店舗で構成される複合型施設「NEUK shirokanetakanawa(ヌーク白金高輪)」が、4月1日にオープンした。同物件は安田不動産(東京都千代田区)を事業主とし、リアルゲイト(東京都渋谷区)がトータルディレクションを行った、築56年の旧シェアハウスをリノベーションしたプロジェクトである。
 建物は地上4階建てで、延床面積は1036・03㎡。東京メトロ南北線・都営三田線「白金高輪」駅より徒歩数分の閑静な住宅街に立地する。かつては企業の独身寮として利用され、その後は安田不動産がシェアハウスとして運用。コロナ禍をきっかけに徐々に入居者が減少していたことから別の活用法を模索する中で、都心部を中心に100棟を超えるクリエイティブオフィスの企画・運営実績を持つリアルゲイトに白羽の矢が立った。同社は物件をシェアオフィスとして活用するにあたり、周辺住民が主なターゲットとなることから地域の結節点としての役割を持つ施設のプランニングを実施。1階の接道面には店舗区画を3区画用意した。店舗区画には、東京・奥沢の人気カフェ「UTAKATA COFFEE」が、新店舗「KAIKOU COFFEE」を出店。そのほか、雑貨店やフラワーショップが出店し地域に賑わいをもたらす。
 建物は壁式構造であることから大掛かりな間取りの変更は行わず、外壁や梁といった構造体の解体・撤去は一部にとどめた。また不要な廊下や階段を一部居室化することで専有区画の面積を確保。エレベーター未設置であったことから、新たにエレベーターを設置している。シェアハウス時代にリビングダイニングとして使用されていたスペースは、シェアオフィス入居者向けのラウンジスペースとして活用。シェアオフィスは1階の一部と2~4階の全24区画で、タイルカーペットやルーセントカラーなど、貸室によって4パターンの床材を採用しており、入居者は好みによって貸室を選択できるのが特徴だ。貸室の面積は18~35㎡で、最も部屋数の多い18㎡はシェアハウス時代の区画を生かし9㎡の隣り合う居室の壁を撤去し統合したもの。スタートアップや少数精鋭で事業を展開する企業が利用しやすいサイズ感を確保した。
 今回のプロジェクトでスペースデザインを担当したCLOCK、植栽計画を担当したTOO GARDENは、いずれも白金エリアに拠点を構える地元企業であり、施設づくりの面でも地域に根差した施設を目指す姿勢を垣間見ることができる。リノベーション工事の着工前にはワークショップなどのイベントを開催し、地域住民ら約500人が参加した同施設。今月17日にはオープニングイベントが開催され、ラテアートのワークショップなど多数の参加・体験型のイベントを企画。周辺地域の住民らで賑わいをみせた。リアルゲイトによれば、シェアオフィスは50%以上が契約・申込となっておりリーシングは順調とのことで、これまでオフィスエリアとしての認知があまり高くなかった地域での潜在需要の掘り起こしにも成功しているようだ。




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