不動産トピックス
【5/12号・今週の最終面特集】東京賃貸オフィス市場 データから分析する今後の展望

2025.05.12 11:18
都心のハイグレードオフィスは空室率1%台間近
山手線東側の主要エリアが好調をけん引
リノベ物件の市場への供給で更なる需要の喚起に期待
働き手が慢性的に不足していく中、企業は優秀な人材の確保に対して、これまで以上に多くのリソースを割かなければならなくなった。その1つの方法が魅力的なオフィスの構築。通勤しやすく、働きやすい環境づくりが加速し、東京都心のオフィス市況にとって追い風が吹いている。
25年の新規供給119万㎡ 竣工前でも内定率は堅調
森トラスト(東京都港区)は先月24日、「東京23区の大規模オフィスビル供給量調査2025」の調査結果を公表した。同社は1986年から東京23区の大規模オフィスビル(延床面積1万㎡以上、複合用途の場合はオフィス以外の用途を除いた面積)、2013年から中規模オフィスビル(延床面積5000㎡以上1万㎡未満)の供給動向について、毎年1回調査・分析を行っている。2024年の東京23区における大規模オフィスビルの供給量は64万㎡で、23年の138万㎡を大きく下回る水準の供給となった。2025年は119万㎡で、来年以降も26年および29年に100万㎡超のまとまった供給が予定されているものの、27年は過去20年間で最も少ない供給量となる見通しであり、今後5年間の平均供給量は過去20年間の平均である104万㎡を下回る95万㎡に留まる見込みである。
区ごとの供給割合は、都心3区が過去5年間で全体の7割を占めていたが、今後5年間では8割に増加。エリア別では、過去5年間は「虎ノ門・新橋」、「大手町・丸の内・有楽町」が供給の中心であった一方で、今後5年間では「八重洲・日本橋・京橋」、「白金・高輪」における供給が中心となる。
森トラストの調査によれば、新築ビルの内定率は24年竣工の大規模オフィスビルで8割超、25年および26年竣工では約6~7割に達している。内定率が低調であったコロナ禍を経て、景気回復と企業活動の活発化により、竣工前の段階でも強い引き合いがみられるようになった。また既存ビルの空室率は改善が続いており、賃料も昨年時点で上昇基調に転じている。今年から一定量の供給が続くものの、新築ビルへの引き合い増加や既存テナントの内部増床需要が旺盛な状況で、27年・28年は低水準の供給に留まる見通しであることから、賃貸オフィスマーケットは堅調に推移するとしている。
新築ビルの中には計画発表時点から竣工時期が後ろ倒しとなった案件もあり、その要因としては建築費高騰を背景とした工期延長や計画の見直しが考えられる。このような建設業界を取り巻く環境は継続する可能性が高いとみられ、29年の供給予測は流動的な部分があり、今後の動向が注目される。同社によれば、建築費高騰の背景に加えてサステナビリティが重要視されている社会背景からも、建替えや再開発による新築ビルの供給だけでなく、既存ビルを生かしながら競争力を向上させるリノベーションへの注目が更に高まるとし、良質なオフィスビルが増加することによる更なる需要の喚起に期待を寄せている。
空室率はコロナ禍前のボトムの水準に接近
コリアーズ・インターナショナル・ジャパン(東京都千代田区)は今月8日、東京主要5区のグレードAオフィス(基準階面積が概ね300坪以上の、主に賃貸に供されるオフィスビル)のマーケットレポートを発表した。このレポートは四半期に1度発表されるもので、今回は2025年第1四半期のレポートとなる。
2025年1~3月期は、「TAKANAWA GATEWAY CITY」の中核施設である「THE LINKPILLAR 1」のNORTH棟・SOUTH棟が開業するなど、新規供給が13万2500坪と増加した。一方で、人員増強を見据えた増床移転や優秀な人材確保を企図としたオフィス環境の改善を目的に、戦略的なオフィスの移転需要が底堅く推移しており、需要が新規供給を上回った。空室率は前期から0・6ポイント低下して2・1%と、非常に低い水準を維持している。賃料は坪あたり3万3100円で、前期比1・7%の上昇。こちらも足下のオフィス市況の好調ぶりを裏付ける結果となった。シニアディレクター&ヘッドの川井康平氏は「企業側の積極的なオフィス増床や移転需要はあるものの、主要エリアのグレードAオフィスで大型移転の受け皿となる床は希少な状況で、入居テナントからの館内増床の要望が多いことも、市場でテナントを募集する空室が減少する一因となっているとみられます。空室率はコロナ禍前のボトムの水準に接近してきており、今後は徐々に踊り場の状況に移行していくものと予測されます」と話す。
特に需要が集中しているのが「東京」駅から「品川」駅にかけての山手線東側エリアで、空室率は丸の内・大手町エリアが1・4%(前期比マイナス0・9ポイント)、品川・港南エリアが1・2%(前期比マイナス1・4ポイント)であった。直近では都心の好立地に建つハイグレードオフィスへのオフィス移転が目立ったトレンドとなっており、赤坂や六本木といったターミナル駅から乗り換えによってアクセスするエリアは市況の改善で後れをとっていた。しかしながら、今期の赤坂・六本木エリアの空室率は前期比マイナス1・9ポイントの12・1%で改善傾向が進んでいる。これについて川井氏は「ターミナル駅周辺で大型募集の希少性が増し、需要が周辺地域にも波及しているものと考えられます。湾岸部も都心に近いエリアでは大型の移転事例が散見されるようになってきました」と述べている。
賃料も上昇傾向が続いている。オフィス仲介大手の三幸エステート(東京都中央区)は、ニッセイ基礎研究所(東京都千代田区)と共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標「オフィスレント・インデックス」の2025年第1四半期版を先月30日に公表した。
東京都心部のAクラスビル(延床面積1万坪以上、1フロア面積300坪以上、築年数15年以内)の賃料(成約賃料ベース)は前期比プラス2020円の坪3万509円であった。前期比で6期連続の上昇となり、坪あたり3万円台を回復したのは2021年第4四半期以来である。空室率は6・1%で、前期から0・4ポイントのプラスとなったが、これは今年のAクラスビルの新規供給が第1四半期に集中しているためで、足元のオフィス需要は堅調な状況であることから今後は空室の消化が順調に進むものとみられる。
Bクラスビル(1フロア面積200坪以上でAクラスに該当しないビル)の賃料は坪2万41円で、前期から663円のマイナスであったものの下落は小幅な動きにとどまっている。また対前年変動率は6期連続でプラスとなっており、2023年の第1四半期をボトムとした上昇傾向が継続している。空室率は前期比マイナス0・4ポイントの2・5%で、6期連続の低下。空室率は2022年第3四半期をピークに低下傾向が継続している。
Cクラスビル(1フロア面積100坪以上200坪未満のビル)の賃料は坪1万8924円で、前期比821円のプラスであった。上昇は2期連続で、緩やかな賃料の上昇傾向となっている。空室率は前期比マイナス0・3ポイントの3・1%であった。都心の千代田区や港区を中心に空室の消化が進んでおり、2022年第3四半期の5・0%をピークに低下傾向が継続している。
東京の賃貸オフィス市場は旺盛な需要に支えられる形で改善の状況を維持している。2025年は前半に新規供給が固まっているが、竣工前からリーシングが順調に進んでいたこともあって市場への影響は軽微であった。好調の波はビルのグレードや立地エリアによって段階的に及んでいる。貸し手優位で安定したマーケット環境の今だからこそ、市況の反転など不測の事態に備えて適切なバリューアップで所有物件の市場価値を高めておきたいところだ。