不動産トピックス

【今週号の最終面特集】地域活性化に貢献する 郊外・地方の不動産戦略

2023.12.18 10:50

最先端の環境配慮型ビル開発 耐火性・安全性有するCLTパネルを使用
 都市部では既存物件の建替え・再開発が進む一方、郊外部や地方では人口減少・高齢化といった大きな課題を抱えている。地元企業を中心に展開される、その土地ならではの不動産戦略を紹介する。

約45mは国内最高層 純木造ビル建設に挑戦
 東洋ハウジング(千葉県鎌ケ谷市)は、地元の鎌ケ谷市を中心に戸建て住宅の新築やリフォーム、土地活用の提案などを行っている。同社は現在、地上15階建て純木造ビルの建設プロジェクトを推進している。木造としては国内最高層となる高さ約45mの高層棟「kinobiru」と地上2階建ての低層棟を建設する「木のまちプロジェクト」は、「新鎌ヶ谷」駅より徒歩数分、鎌ケ谷市役所に隣接する土地において計画中のプロジェクトである。
 西峰氏は社長業のかたわら、経営を学ぶため東京大学大学院経営学部経営学科の受験に挑戦するも不合格に。その後、家業が工務店であることから工学部の受験に挑戦するも、またも不合格。そんな折、農学部の稲山正弘教授の木材を活用した中高層建築の普及促進の取り組みに感銘を受け、農学部の受験を決意。通算9回目の受験で見事合格を果たした異色の経歴の持ち主である。この経験が今回の純木造ビル開発プロジェクトへと通じている。
 高層棟「kinobiru」は15階建てのうち、1階は店舗として賃貸を予定し、2階は東洋ハウジングが本社として使用、3~14階は賃貸住宅とする予定だ。建物全体の重量バランスを考慮して1階部分は鉄筋コンクリート造とし、2階以上の14層は柱や梁、壁、床のほか、エレベーターシャフトといった金属製が一般的な箇所にも木材が使用される。本プロジェクトで使用される木材は、木造建築の部材・工法を手掛けるシェルター(山形県山形市)製を使用。板の繊維方向が直角に交わるように何層も重ねて接着した「CLTパネル」が採用され、軽量でありながら高い強度を持ち、2時間の耐火性能を有する。基礎部分は免振装置を設置して地震による揺れを軽減するとともに、建物形状も円柱形を採用することで、揺れによるどの方向からの力にも耐えられる強度を確保する。
 各階は建物強度保持のため中心部分から仕切り壁を放射状に配置し、ワンフロアあたりの住居戸数はワンルームタイプであれば扇形の部屋が7部屋、ファミリータイプは2部屋配置される。ワンルーム主体の計画とした点について、西峰氏は「ファミリー層の住宅ニーズは戸建てに偏る傾向にあり、賃貸住宅として運用するならば都心に通勤する単身者向けのワンルームが適していると判断しました」と話す。
 純木造は環境面におけるメリットも大きい。従来使用される鋼材などを木材で代替することで部材の製造から施工におけるCO2の排出を大幅に削減。また使用されている部材自身もCO2を吸収し温暖化の抑制に貢献する。木の温もりは室内の居住性や快適性にも寄与するほか、断熱性にも優れている。木材を積極的に活用した建築物が街に誕生することで、地域のブランディングにも期待が持てる。
 現在基礎工事の段階となっている「kinobiru」であるが、2025年夏ごろに建物の建設を本格スタートさせ、2026年いっぱいの完成を目標としており、賃貸住宅フロアの入居開始時期は2027年初頭を計画している。東洋ハウジングは既に完成した地上2階建ての低層棟に本社事務所を移し、暫定オフィスとして使用中。「kinobiru」完成後は2階フロアに本社オフィスを移転させ、モデルケースとなる「kinobiru」を拠点に木造の高層建築の普及啓発に取り組む考えだ。

組み合わせは自由自在 ユニット式グランピング施設
 左官工事や建築工事一式、リフォームなどを手掛けるメガステップ(東京都品川区)は、2021年より鉄骨製のユニットハウス「メガボックス」を活用した別荘地・リゾート地でのグランピング施設の開発を提案している。
 「メガボックス」は、幅約6m・高さ約3m・奥行き約2・3mの直方体に組み上げた鉄骨を1ユニットとし、このユニットを様々な形状に連結することで間取りや広さを自由に変更することができる。JIS鋼材を使用しているため建築確認許可申請も可能で、戸建ての住宅や店舗など、ユニットの組み合わせ次第で立地に応じた用途で活用することができる。例えば「メガボックス」を「コ」の字に配置し、中央部にウッドデッキを配置するなど、ロケーションに応じた間取りを構築できる点が大きな特徴だ。外壁や内装等の工事は豊富な実績とノウハウを持つ同社が担当。一般の戸建て住宅と同様の断熱工事を実施し、高い居住性・快適性を誇る。
 取締役の本井武氏は「『メガボックス』は自社工場生産で高品質・低コストを実現する点が特徴です。同サイズのユニットハウスの場合、他社では1ユニットあたり500~600万円程度のところ、当社は内装工事費含め250~350万円で施工が可能です。海辺や高原などのリゾート地でグランピング施設としての採用実績を伸ばしていますが、今後は別荘・戸建てや店舗といった多用途の展開も積極的に行っていきたいと思います」と話す。
 メガステップでは職人の質を高める取り組みとして、建設業界では初となる研修施設「職人道場」を2018年に栃木県那須塩原市に開設。建設業界では左官、塗装、防水など、作業品目や箇所によって専門の職人が作業するのが一般的であるが、「職人道場」では1人で様々な業務をカバーする多能工化を目的とした人材育成プログラムを採用。自社の職人はもちろんのこと、全国の建設会社や工務店などから参加者を募っている。建設業界では職人不足や人材育成が大きな課題となっているが、同社は「職人道場」を通じて多様な職種・技能に対応した職人の多能工化を推進し、業界が直面する課題の解決に取り組んでいる。
 近年は那須塩原市内で別荘地の土地を取得し、貸別荘の再生および運営にも注力しているという。本井氏は「きっかけはコロナ禍です。『職人道場』ではこれまで多くの研修生を招いて当社講師による研修が行われてきましたが、コロナ禍で研修施設の運営が困難な状況となりました。そこで、別荘地として知られる那須塩原の地域活性化を目的に『職人道場』周辺の別荘地の再生に取り組むようになりました」と話す。この経験と同社が培ってきた建築技術を生かし「メガボックス」が開発された。
 コロナ禍によってアウトドアブームが再燃し、グランピング施設をはじめ自然を感じられる宿泊体験へのニーズが高まっている。また同時に投資対象としてこうした宿泊施設や貸別荘への不動産オーナーや投資家らの注目が集まっているのが現状だ。建設業界では職人不足や資材高騰などから建築コストの上昇や工期の遅延が問題となっている一方で、「メガボックス」は高品質と低コストを両立した施設を提供できるとして、国内での施工事例を着実に伸ばしている。


築39年の元酒屋をリノベーション まちづくりの拠点となる複合施設開業
 今月初旬、太平洋に面した茨城県大洗町の商店街の一角に佇む築39年の元酒屋をリノベーションした複合宿泊施設「波と月」が開業した。
 建物は1984年12月に建築された、木造2階建ての店舗併用住宅。前所有者が後継者不在を理由に移住を決断し、その後は岡山県を中心に自動車教習所や飲食店の運営などを行うモトヤユナイテッド(岡山県倉敷市)が土地建物を取得。リノベーションによる既存建築の利活用を検討開始した。課題となったのは当該物件が検査済証を紛失しており、当時の基準に適合した建築である証明ができない点であった。設計・施工を担当したJapan asset management(東京都品川区)の代表取締役・内山博文氏は「検査済証のない建物は既存不適格または違反建築である可能性の調査を行う必要があるため、確認申請を必要としない店舗面積200㎡未満の範囲内で用途変更が納まるよう、企画・設計を行いました」と話す。
 1階店舗は町中華をモダンにアレンジしたカフェ&ダイニングとした。民泊施設として使用するスペースは建物裏側の勝手口を玄関とし、1階には浴室、2階には居室とラウンジスペースを設けた。2階の一部は床を撤去し、吹き抜け空間として減築することで、1階店舗からは開放感を演出することに成功。民泊施設の運営は地元のまちづくり会社・Coelacanth(茨城県大洗町)が担当する。同社は町内で既存物件の利活用提案やまちづくりイベントなどを積極的に行っており、「波と月」は地域住民と街を訪れた人々をつなぐ拠点としての機能も期待されている。

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