不動産トピックス

【今週号の最終面特集】地域に新たな風を吹き込むリノベーションまちづくり

2023.10.02 10:18

社員寮とスナックビルを多用途に 地域活性のシナジー生むリノベ事例
 エリア特性や既存テナントの特徴など、物件により強みは様々。その強みを生かしつつ、柔軟な発想で用途を広げたリノベーションを図ることで、資産価値の向上につなげることができる。

戸越の社員寮を賃貸住宅に 老舗文具メーカーの挑戦
 コクヨ(大阪市東成区)は今年9月、築33年の自社の社員寮をリノベーションした生活実験型集合住宅「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」を開業させた。
 キャンパスノートで知られるコクヨは、多様化するニーズに合わせてワークスタイルの新提案を行ってきた。2021年2月には品川オフィスを全面リニューアルした「THE CAMPUS」を開業。ラウンジや公園、ショップ、コーヒースタンドなどを創設し、地域の人々や外部ワーカーに憩いの場を提供している。
 今回、旧社員寮を賃貸住宅へと改修した経緯を、経営企画本部 イノベーションセンター ライフスタイルユニットの荒川千晶氏は「リモートワークが進んだ昨今は、ワークスタイルとライフスタイルが融合してきている面があるととらえています。老朽化が進んだ社員寮を多用途が交わる賃貸住宅とすることで、ライフスタイルの新しいニーズに応えたいと考えました」と話す。
 「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」の規模は延床面積1467・70㎡、敷地面積484・38㎡、地上5階地下1階建て。東急大井町線「戸越公園」駅から徒歩3分、戸越公園駅前南口商店街の中に位置する。「プロトタイプする暮らし」をコンセプトに、人々の「いつかやりたかったこと」を後押しする施設を目指した。
 1階にはシェアリビング・フードスタンドと一部スタジオ。2~5階は全39戸の住宅フロア。地下1階はスタジオや共用のランドリーとシャワールーム等で構成される。シェアリビングは入居者専用の休憩スペース。フードスタンド「THE CAMPUS STAND」は視認性がよく、商店街の歩行者も気軽に立ち寄れる。
 2~5階の住宅区画はそれぞれ10・06㎡~25・93㎡。水回りは洗面台のみのシンプルな設備のものから、シャワー・トイレなどを完備した広めの部屋まで間取りは5種類。各部屋にはコクヨグループのインテリアショップ:ACTUS(東京都新宿区)が提供するブランド「good eighty%(グッドエイティパーセント)」の家具に加え、エアコン・冷蔵庫などの家電を完備。共用設備としてシャワー・ランドリー・トイレのほか、キッチンや一人用のバスルーム、ストレージ(別料金)等が利用できる。
 居住区画の特徴の一つが契約期間。「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」では定期借家契約を採用。最短3カ月から最長1年、1カ月刻みで契約期間を選択できる。1年単位での再契約も可能で、長期入居希望者にも柔軟に対応する。
 「当施設のコンセプトでもある、『いつかやりたかったこと』ができる環境づくりにこだわっています。今回、人生のターニングポイントとなるような期間をFLATSで過ごしていただきたいという想いを込めて、1年間の定期借家契約としました。創作活動や学習等の、一時的な住まいとしてご利用いただけることも想定しています。また各部屋は1~4人まで一度に契約することが可能です。『THE CAMPUS FLATS』以外の場所にも拠点をもつ友人同士で契約し、東京での仕事や予定に応じて順番に宿泊する、といった使い方もできます」(荒川氏)。
 そして「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」のもう一つの個性が、多様なレンタルスタジオ。吹き抜けが特徴的な「フィットネス」、IHコンロを完備した「クッキング」、イベント利用もできる「ラウンジ」、ブース席の「1on1」、遮音仕様の「リモート」、施術台とミラー完備の「ビューティ」、飲食店営業許可付きのキッチンを完備した「スナック」、屋外の物販やイベントに活用できる「ポップアップ」と8種類のスタジオを開設した。利用時間は最短30分(スタジオにより異なる)から1日貸しまで対応。あらゆる用途をミックスすることで、賃貸住宅でありながら、様々な人々との交流につながる仕掛けづくりを行った。
 「『THE CAMPUS FLATS TOGOSHI』では当社のグループ会社の社員がコミュニティマネージャーとして入って、行政や商店街の皆様との関係性の構築に努めています。今後はスタジオを活用したトークセッションやワークショップのイベントも予定しています。当施設をきっかけに、新しい人たちがまちに入ってくれば幸いです」。  現在、居住区画は約9割が申込済。スタジオの反響も上々という。昔ながらの商店街に新たな歴史を刻んでいく。

半分空室のスナックビルにワークスペース等を開設
 沖縄県中頭郡で建設業を営む福地組は今年9月、スナックビルをリノベーションした複合施設「HAVE A GOOD DAY HIGASHIMACHI」を開業した。
 1953年に設立の福地組は、住宅・共同住宅・医療介護施設など新築物件の設計・施工を請け負ってきた。2020年3月からはマンションや住宅を中心としたリノベーション事業を開始。その一環として今回のプロジェクトを行った。
 代表取締役社長の福地一仁氏は「前身の『東町ビル』は、スナックを中心とした飲食ビルで繁盛していましたが、コロナ禍で打撃を受けて稼働は半分近くまで減少。それを受けて、21年に弊社が取得。オーナーとしては、家賃を上げて資産の価値を上げるには、それに見合う付加価値を提供することが大切と考え、1~4階の既存テナントを残しつつ、複合ビルへとリブランディングすることで、新しい人流を生み出すことを目指しました」と話す。
 「HAVE A GOOD DAY HIGASHIMACHI」は延床面積1315㎡、敷地面積333㎡の地上6階建て。沖縄都市モノレール「旭橋」駅から徒歩5分に立地する。リノベーションを行ったのは1階のオープンスペースと5~6階、屋上フロア。開放感のある吹き抜けが印象的なオープンスペースでは、コーヒーやドーナツを露店販売している。壁面にはアートが施され、美味しいものと一緒にシャッターが押せる「映え」スポットに生まれ変わった。
 「HAVE A GOOD DAY HIGASHIMACHI」の目玉となるのが5階のチャンプルーフロア、6階のワークフロア。チャンプルーフロアでは、1つのテナント区画を2事業者が使える「二毛作」方式を採用。昼はカフェで夜はバー、あるいはクリエイティブのサテライトオフィスが使っていない夜の時間帯に飲食店が営業するといった具合。テナント側は安い賃料でお店を出せて、オーナー側は稼働を増やして収益化を最大限に図ることができる。
 ワークフロアには1区画44㎡と50㎡のレンタルオフィスを2区画と、115㎡のコワーキングスペースを開設。コワーキングスペースはフリーデスクで全60席。別料金で会議室も利用できる。料金はベーシックプランで税込月額3万3000円。出張のビジネスマンから地元のワーカーまで幅広いニーズに応えつつ、利用者が楽しめる仕掛けづくりにも事欠かない。
 「稼働を持続するためには、利用者の満足度を高める環境づくりが大切です。その一環として、コミュニティマネージャーを常駐させて、利用者同士をつなぐ支援をしたいと考えています。『HAVE A GOOD DAY HIGASHIMACHI』の名前の通り、このビルを通じて多くの方々に沖縄を楽しんでもらいたい。例えば、出張でコワーキングスペースを利用された方が、仕事が終えたら下のスナックでママと楽しく過ごすのも良い思い出になるかもしれません」(福地氏)。
 開業から1カ月足らずの現時点で、反響は上々。チャンプルーフロアにはドーナツ屋とカジュアル酒場が入居し、ワークフロアのテナント区画も1社入居が決まりそうな状況という。
 「おかげさまで沢山の方から反響いただいています。ドーナツ屋は閉店時間前に売り切れるほどの人気ぶりで、コワーキングスペースもすでに県外の方が何人か登録されています。東町のエリアは中高層ビルの開発が進むとともに、昔ながらの街並みから遠のきつつあります。今回のプロジェクトを通して、沖縄の雰囲気を残しながら、改めて街づくりについて考えるきっかけにもなれば幸いです」(福地氏)。

PAGE TOPへ