不動産トピックス

【今週号の最終面特集】空室改善の新潮流

2022.10.10 11:10

ステージング・DXを駆使して成約率向上
オフィス・住宅物件の空室改善策に迫る
 オフィス・住宅の空室改善施策は三者三様。エントランスの改修やセットアップオフィスなどのバリューアップのほか、昨今はコロナ禍のニーズを踏まえた空室改善策が注目されている。

セットアップの弱点をカバー リーシング時のみ家具を配置
 オフィスの空室改善の施策の一つにセットアップオフィスがある。テナントは入居後のイメージがしやすく、オーナー側としても相場よりも高い賃料帯で成約できるなどメリットも大きい。一方で、内装や家具のイメージが入居者の要望と必ずしもマッチしないという理由から、反響はあっても成約には至らないという課題も残る。
 この課題の解決を図るサービスがある。JOY(千葉県船橋市)は、リーシング期間中のみ家具やインテリアを設置する「オフィスステージングサービス」を8月より展開している。同社は今年3月に設立。関東エリアを中心に、中古オフィス家具の買取・再販、オフィス移転のトータルコーディネートを行っている。
 新築の住宅物件の客付けに使われる手法の一つに「ホームステージング」がある。中古物件などにおいて家具を配置することで、実際にそこで生活を送るイメージをしやすくする効果がある。
 同社で行っている「オフィスステージング」も同様。リーシング期間中にのみオフィスに家具やインテリアを設置し、入居後の働く姿をイメージしやすい点が、テナント側の大きなメリット。セットアップオフィスとは異なり、家具は成約後の引き渡し時には撤去する。サービスは月額制で、入居者が決まった当月をもって契約を終了することができる。
 サービス開始の経緯と特徴について代表取締役の福士知志氏は「ビルオーナー様のリーシングに対する感覚が、コロナ禍前と異なってきていると感じていました。これまでは何もしなくても埋まっていた状況が一変し、なかなか決まりづらくなっている。セットアップオフィスの場合は初期投資にお金がかかる一方で回収までが長いと感じるオーナー様もいらっしゃると考えています。オフィスステージングであれば、オフィス家具はレンタルのためコストがかかりません。成約後は入居者の好きな造作に仕上げることも可能です」と話す。

反響増や成約率向上に期待 低コストでスピーディも売り
 オーナー側のメリットも大きい。まず挙げられるのが反響数の増加。オフィスに家具を設置し魅力的に見えることから、入居希望者をはじめとした反響数の増加が期待できる。
また成約率の底上げ、成約スピードアップにも貢献する。家具やインテリアはレンタルが基本となるため、セットアップオフィスに比べると低コストで済ませることができる。装飾が無い室内では目立ってしまう小さな汚れや傷をカモフラージュできる点も、オフィスステージングならではだ。
 「契約から設置、撮影、広告掲載まで最短30日とスピーディに対応することができます。『ホームステージング白書2017』によると、ステージングをすることで入居者募集から成約までの期間を約3分の1に短縮できるとのデータもあります。導入コストは家具の配置の数などによって異なりますが、小規模のオフィスの1フロアだけであれば1万円未満に抑えることも可能です。サービスを初めて間もないですが、空室に悩んでいるオーナー様を中心に問い合わせを複数頂いている状況です」(福士氏)
 設立間もない同社はこれからECサイトを立ち上げ、本格展開を目指していく。

20年からマンションDXを展開 導入は2年で1000棟弱に
 マンションへのDX導入で大手企業の参入が著しい。今年8月には三菱地所(東京都千代田区)が大崎電気工業(東京都品川区)とスマートホーム事業領域で、業務提携に向けた基本合意書を締結。協業の第1弾として、三菱地所が開発した総合スマートホームサービス「HOMETACT(ホームタクト)」と大崎電気工業が開発したスマートロック「OPELO(オペロ)」のシステム連携を開始している。
 一方でIT事業者によるマンションDX事業の進出も顕著だ。IT総合商社のWiz(東京都豊島区)は2020年から、マンション向けのDXサービスの運用を行っている。2012年設立のWizは、法人パートナーDXから個人パートナーDXまで様々な角度からDX事業を展開。マンションDXはWizの蓄積するITノウハウを駆使し、昨今のニーズを踏まえてスタートさせた。
 サービス開始の経緯について、マンションDX事業部課長の馬田更紗氏は「当社の事業の大きな柱はNTTの個人回線工事です。NTT回線を導入している集合住宅に今後伸びていく商材を取り入れようと考えDXサービスを企画しました。様々な地域のオーナー様から引き合い頂き、サービス開始から約2年の現時点で、導入棟数は1000棟弱にのぼります」と話す。
 Wizでは自社の持つITノウハウに選りすぐりの製品を連携させた、精度の高いDXサービスを提供する。クラウドカメラをはじめ外出先からの鍵の開閉。エアコン・カーテン・照明・暖房などのオンオフを操作できる「SpaceCore」。専用アプリで家電のレンタルやオンラインショッピングまで入居者の要望に応えるコンシェルジュ「need」など、サービスの豊富さが特徴だ。

築古物件の空室改善に寄与 各地のマンションで成功事例
 マンションへのDX導入による大きなメリットは、空室改善。つまり利回り向上。DXと聞くとハードルが高いと感じるかもしれない。がWizのDXを導入するオーナーの中には、中小規模の築古ビルを保有するオーナーも多い。
 「コロナ禍以降は置き配ニーズの高まりから、特に宅配ボックスを置きたいというオーナー様のニーズが強いです。DXを導入することで、立地的な事情やビルの経年劣化による悩みのタネの空室改善にもつながります。例えば埼玉県所沢市のある賃貸マンションでは、カメラやWi―fiなどを導入し、10室中3室の空室が満室に。町田市の賃貸マンションではスマートロック、カメラ、Wi―fiなどを導入し、16室中3室の空きだったのが満室稼働に繋がっています」(馬田氏)
 コストは導入品目にもよるが、例えば30戸の賃貸マンションへスマートホームサービスを導入した場合、初期コストは約10~15万円程度。コンシェルジュなどのサービスの管理はWizが請け負う形となる。今後Wizでは、300万棟のマンションへのDX導入を目指していくという。


賃料アップに繋がるケースも
Wiz DX事業部課長 馬田更紗氏
 オーナー様がDXを取り入れる理由として多いのが、「築古物件のため、満室稼働だけれど今後の募集で家賃を下げることになりそう」というケース。ネット回線やオートロックの導入により2000~3000円程度の賃料アップにつなげるオーナー様が多く、バリューアップの施策としても人気です。もちろん空室改善にも有効で、7~8件の空きがある築30年以上のマンションにDXを導入後、2~3カ月で満室になるというケースもありました。近年はDXの認知度が上がってきていると実感しています。現在当社では賃貸マンションを扱うことが多いですが、今後は分譲マンションをはじめ様々な物件への導入を見据えています。


エントランス用スマートロックの活用に関する効果検証を実施
 ライナフ(東京都文京区)と三菱地所リアルエステートサービス(東京都千代田区、以下三菱地所リアル)は、三菱地所リアルが管理する建物の中から6688室を対象に、エントランス用スマートロックの活用による内覧数の変化について効果検証を行った。
 対象期間は2019年4月~22年8月、一都三県で期間内に空室のあった物件を対象とした。調査の結果、ライナフの提供する、マンションの共用エントランスをスマートフォンやPCから遠隔で解錠できるようにするIoTシステム「NinjaEntrance」、空室内覧のスケジュール予約から鍵の自動付与までをオンラインで行う「スマート内覧」が導入された建物では、未導入の建物と比較して内覧数が3・3回増加していることが判明。スマートロックの活用により内覧数が増加し、不動産の収益性が改善される可能性が示された。

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