不動産トピックス

【今週号の最終面記事】持続可能な社会へ ビルメンテナンス会社のSDGs

2022.07.18 10:33

入居者の評価に繋がる管理業務のSDGs 廃棄物15%削減で環境に優しいビルを構築
教育プログラム見直しで2030年までに離職率半減目指す
作業員の意識改革を推進し顧客満足度向上へ

 近年の企業が取り組むべき課題としてキーワードに挙がることの多い「SDGs(持続可能な開発目標)」や「サステナビリティ(持続可能性)」。世界的な気候変動をはじめとする様々な問題を解決するための指針となるこれらの取り組みは、多くの従業員を抱える大企業を中心に展開されている。しかし中小事業者の間でも、企業の成長に向けて積極的な取り組みに踏み切る例が増えてきた。

環境問題への取り組みはブランドイメージにも貢献
 総合ビルサービスの大成(名古屋市中区)は今年5月、SDGs実現に向けた自社の取り組みを紹介するサイト「TAISEI ACTION! SDGs」を開設した。同社は昨年7月に「SDGs宣言」を掲げ、SDGsポリシー「ファシリティマネジメント事業を通じて、環境と働き方改革に配慮した社会の実現の一端を担います」を軸とし、ステークホルダーとのパートナーシップを形成し、サステナブルな街づくりを目指した活動を推進している。今回開設したサイトではサステナビリティに関する同社の考え方や取り組みをわかりやすく紹介。具体的には、同社が新設したダイバーシティ室にて第一線で働く多国籍スタッフに、働き方に関して話を聞く企画や、労働人口減少という課題の解決に期待が寄せられている警備ロボットと熟練の警備責任者による対談企画など、様々なコンテンツを通じて同社が推進するサステナビリティやSDGsへの取り組みに関する情報発信を行っている。
 環境貢献はもちろん企業のブランドイメージ向上を実現する上で、高い関心が寄せられているSDGsであるが、こうした流れは中小規模事業者の間でも広まりつつある。特にビルメンテナンスの分野では事業活動にSDGsを組み込むことで、自社の取り組みだけでなく管理受託物件のブランドイメージにも効果が及ぶだけに、その効果は非常に大きいものとみるべきだろう。
 従前からビルメンテナンスの現場では環境負荷低減という、ビルの社会的使命として求められるテーマに対し、最前線で取り組む役割が求められてきた。共用部・専用部で使用するエネルギーの削減をはじめ、清掃に使う洗剤の削減、さらには排出するゴミの抑制など、これまであまりスポットライトを当てられてこなかった内容についてもさまざまな対策が求められている。
 清掃の場合、従来は回数を増やし、洗剤を多く使うことが良い清掃であると思われていた時代もあった。だが、洗剤の廃棄により生じる環境負荷や、洗剤に含まれるVOCが人体に与える影響などが周知され、過剰な清掃は必ずしもテナント・オーナーの意向に沿わなくなりつつある。ゴミの排出についても、テナント個々の問題として突っ込んだ対策を行わないビルが多かったが、一部のビルではゴミの分別回収に加え、排出したゴミの計量によって個々のテナントに責任を明確に意識してもらうという風潮が広がりつつある。こうした問題についてきちんとテナントに説明できるか否かというのも、管理会社を選ぶ上でひとつの基準となっていくだろう。また、作業品質に関しては、作業の結果を点検し今後の改善に生かすとともに、必要に応じてオーナー側に改善提案を行うインスペクターの活用も有効となるだろう。東日本大震災を通じて、建築物の安心・安全が改めてクローズアップされている。毎日をビルで過ごすテナント入居者にとっても、自らの命に関わる大きな課題として広く認識されつつある。築年数に限らず、建築物の安全性を損なわないためには、日々の管理業務のあり方からまず見直し、より安心して快適に利用者が過ごすことのできる環境づくりに努めることが重要となるだろう。
 建物の清掃・設備管理を行う丸王サービス(東京都新宿区)では、2021年度を初年度とする中期経営計画において、SDGs17の目標のうち「8・働きがいも経済成長も」、「11・住み続けられるまちづくりを」、「12・つくる責任 つかう責任」を独自目標に掲げ、社員教育を通じて事業活動における環境負荷の低減やサステナビリティな社会の実現を目指している。同社の佐々木伸造社長は「規制を設けるだけの目標設定では従業員のモチベーションや教育に悪影響を及ぼすと考え、企業も人も成長し、その中で建物管理業を通じて循環型社会のプラットフォームを構築することを目標に掲げました」と話す。
 具体的な取り組みとしては、生産性の向上と技術開発を目的として昨年10月に「イノベーション開発部」を設置。IoTを活用した効率的な業務推進に向けた検討や、システムエンジニアの雇用による社内インフラシステムの拡充などに注力。そのほか、地域貢献活動への積極的な参加や建物管理を通じた災害リスク低減の提案、作業時に使用する器具類の再生利用などを今年度より本格実施。2024年3月時点で、清掃作業時に使用する水の量を20%削減、廃棄物発生量を15%削減することを目標としている。
 一都三県を営業範囲とし、ビルやマンションの建物管理業務を手掛けているアイティー(東京都世田谷区)の芝田徳史氏は、サステナビリティへの取り組みの意義について次のように話す。
 「ビルメンテナンス業者の選定は、発注者との関係で決定する例が多いのが実情。他社と比較した場合に独自のメリットや強みを打ち出しにくい業務特性が現在の状況を生み出していると思います。コストだけに目が向きがちですが、信頼性の高い業務を安定して提供し続けられる体制をつくることが、中長期の視点でみれば顧客の評価につながると考えています」
 同社ではスタッフの継続的な成長を実現するため、社員教育プログラムの見直しを実施。新入社員から現場リーダークラス、部長クラスなど、従業員の立場やステージに応じて専門スキルの習得や能力開発を行う教育プログラムを策定。この教育プログラムでは業務に求められるスキルを習得することだけを目的としておらず、取引先企業や社員同士といった様々な場面におけるコミュニケーション術など、人間力を高める研修プログラムも含んでいる。最大の目的は「仕事のやりがい醸成」と「離職率の改善」である。芝田氏は「過去10年間に新卒入社した従業員の35歳までの離職率は約40%でした。これを2030年までに約20%とすることを目標に、新人時代から経験を積んで役職者に至るまで、それぞれの段階で求められる知識やスキルを提供し、当社で活躍することへの『やりがい』を感じられるよう、人材育成に注力していく考えです」と述べている。


企業ブランディングに期待
丸王サービス 代表取締役 佐々木伸造氏
 少子高齢化や生産労働人口の減少という社会的な課題がある中、今ある経営資源を生かして成長を目指すためには従業員がこれまで以上に働きやすい環境を整備することが重要であると考えています。業務効率化を実現できる社内インフラシステムの開発のほか、清掃器具の高効率化や作業工程の見直しなどを実施することにより、作業品質を維持しながらもコスト削減を達成できる見通しです。ビル管理から安全安心なまちづくりを実現することで、企業ブランディングも貢献すると期待しています。

PAGE TOPへ