不動産トピックス

【今週号の最終面特集】ITシステムで解決へ DXの一歩目を実現

2022.03.14 12:15

システム開発会社と連携して契約や修繕尾管理をスムーズに
 ビル経営を行っていくなかで修繕に関する資料や経歴、入居テナントとの契約資料、交渉記録などは重要だ。しかしながら例えば担当者の変更やオーナーの代替わりの際に、それらの情報が引き継げていないことがしばしばある。このことはビルの管理運営上、様々な問題が生じてしまうこともしばしばだ。管理システム導入はひとつの解決策だが、既存のものはコストが高い。テナント情報管理とコスト。この2つの課題を東京・多摩エリアのビル所有企業が3年がかりのプロジェクトで解決した。

 既製システムは課題解決できず きっかけは相談から
 多摩ニュータウン開発センター(東京都八王子市)。同社は1988年に設立。多摩ニュータウン西部の南大沢築の地域活性化や生活利便性の向上を目指して、商業・業務施設や駐車用の整備・管理・運営を行っている。駅前に複合ビル「パオレ」、商業ビル「ガリレア・ユギ」、駅前店舗棟「プラザA」などの不動産を運営している。
 事業推進本部長の川合純氏は「これまで大きな課題を抱えていました」と話す。それはビルのテナント情報の管理と引き継ぎがうまくいっていなかったことだ。情報管理を担当者に任せていたが、それが他の社員とは共有されていない。そのため担当者が異動になったりすると、いちからテナント管理の情報をまとめなおさないといけない、という事態が生じていた。「この課題をシステムで解決することができないかと考えて、テナント管理システムの導入を検討いたしました。ただ数社見積もりをとってみたところ当社の目線とは合いませんでした。求めていた機能はテナント管理なのですが、それ以外の機能もパッケージでついていて高価になっていました。市場にでている製品では導入が難しいと考えて、前職に付き合いのあったシステム開発企業に相談しました」。それがエスピック(東京都墨田区)だ。

約3年で「TBMS」開発 ターゲットは中小ビル
 エスピックは1967年設立で半世紀以上、システムインテグレーション・コンサルティングなどを展開する。ビルの運営・管理向けのシステム開発は初の経験だった。川合氏から相談を受けて、同社は業務に対応してどのようなシステムや機能が必要かを確定させる要件定義を行っていった。そこで開発されたのが、「Tenant Building Management System」(TBMS)だ。
 エスピック第2事業部システム5部サブリーダーの小原隆之氏は「TBMS」のターゲットとして、「築20~40年、テナント数が50~200のビル管理・運営企業」を挙げる。コストは基本のパッケージのみであれば1500万円前後に押さえた。これは同種のシステムと比べて5分の1ほどの価格となっている。
 主な機能はテナントとの契約管理や、過去の修繕記録などの書類管理、賃料や光熱費などの請求管理の3つに分けられる。これらの書類をテナントごと、フロアごとでワードファイルやエクセル、PDFファイルなどで保存できる。これによって時系列で履歴を確認することができる。テナントはそれぞれに区画を設定できる。システムではX軸(横)、Y軸(縦)、Z軸(高さ)で管理されていて、たとえば4階の1区画を「X2-Y6区画」として設定。区画ごとに管理していくことが可能となっている。
 保存されている記録にはメモをつけることができる。「たとえばテナントから賃料減額の要請がきて、交渉して結果的には据え置きになったとします。契約書類上にはこの交渉内容は残りませんが、メモ上に残して後任の担当者が確認できます」(小原氏)。
 またこれから行う予定の契約更新などのアラート機能も搭載している。システム上でスケジュールにしたがって「〇月〇日まで」と期限を表示する。これらの基本機能と連携して請求業務標準化も行うことができる。
 社内での情報共有を進めるとともに、セキュリティにも配慮する。導入したビルオーナー企業の社員はそれぞれのアカウントとパスワードが配布される。そのアカウントに紐づけされた権限によって、閲覧することのできる情報が制限される。書類が更新されても、過去のものは保存されている。過去の記録を参照しながら、現在の契約内容を確認できる。

マニュアルや丁寧なレクチャー システム使いこなすまで伴走
 このシステムは多摩ニュータウン開発センターからエスピックへの相談から始まり、約3年の歳月をかけて開発、導入が実現した。川合氏は「エスピック社の担当者には当社内に常駐していただいて、業務の理解から要件定義など、二人三脚で進めていくことができました」と振り返る。社員の平均年齢が58歳ということもあり、一部ではシステムを使いこなせるかどうかに不安の声も挙がった。しかしエスピック社がマニュアルを作成。常駐社員が使用方法を丁寧にレクチャーしたことから、「今では社内全体で使いこなせるようになりました」(川合氏)という。
 エスピックでは今回開発した「TBMS」を多くのビルオーナー企業に向けて展開していく。「同様の課題は多くの企業で抱えていらっしゃるのではないかと思います。既存のシステムを利用しようとしても、導入コストがネックになっているケースは多いと思います。当社のシステムはビル経営の基本部分に集中することでコストを抑えました。ただし、システムの拡張性も備えていますので、各社の業務内容に沿ってシステムをカスタマイズしていくことが可能になっています。多くのビルオーナー企業の課題解決に貢献していけると考えています」(小原氏)。
 中小ビルはバブル期から90年代前半に建てられたものが多い。築年数では30~40年程度。今回の「TBMS」が捉えるターゲットにぴったりと当てはまってくる。これらのビルではシステムがほとんど取れ入れられていないケースも多い。紙の書類などの旧式の方法は、電子化することのハードルよりも高いデメリットを被る可能性がある。システムやテクノロジーをうまく活用していくことで、ビル経営の業務効率化、機動化を実現したい。そのようなオーナーにとって、多摩ニュータウン開発センターのケースはモデルケースになる。


オーナーのニーズに応えられる拡張性も
エスピック 第2事業部営業部 主任 前田大輔氏
 ビル経営、運営管理に関するシステム開発はこれまで実績としてなく、当社としても初めての試みとなりました。「TBMS」の強みのひとつはコストです。他社システムと比べて導入費用が低いことで、これまで価格で手が出すことができなかった中小ビルを所有されている企業にとっても検討しやすい価格にできていると考えています。加えて、もうひとつはシステムの拡張性です。「TBMS」は基本的な機能をカバーしていますが、導入検討起業によっては別の機能がほしい、というニーズを頂く可能性もあります。そこでさらに機能を拡張していけるようにすることで、様々なオーナー様の課題に応えることができる仕様としております。今回はオフィスビル・商業ビルでの導入事例となりましたが、様々なアセットで活用して頂くことが可能です。たとえばマンションなどでございましたら、現在のシステムのままでも利用し、効果を実感してもらえると考えています。

書類探しの煩雑さから解放
多摩ニュータウン開発センター 事業推進本部長 川合純氏
 テナントごとの契約書類などの管理が社内全体で共有されていないことは大きな課題でした。引き継ぎもうまくいっておらず、後任の担当者はテナントとの契約資料を倉庫で探してさかのぼっていかなければならない、というケースもありました。「なんとか解決しなければ」と考えて、取り組んだのがシステムの導入です。機能はシンプルに、かつ使いやすいように開発されたため、パソコンに慣れていない社員でも現在は使いこなせています。書類探しなどの煩雑かつ非効率的な作業から解放されて、ビル経営や運営管理といったテナントや利用者の満足度向上に資する部分の強化に注力できる体制が整ったと考えています。

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