不動産トピックス

【今週号の最終面特集】防災 広がる協力の輪

2021.11.08 12:19

進化する防災産業
災害大国を支える民間企業の防災製品裾野広がる
 災害大国と言われる日本。頻発する自然災害で防災意識が高まっている。自治体や教育機関、民間企業、様々な組織が防災に取り組んでいる今、ビルオーナーが備えておくべきポイントは何か。

自治体がリード 産学官の相乗効果
 災害への備えは多岐にわたる。備蓄品を揃える、緊急時の行動を事前に検討するといった単独の「自助」から、地域の助け合い「共助」や国や自治体による「公助」など様々だ。多くの企業ではBCP対策を構築し、また、地域貢献の一環で非常時には所有ビルを近隣の帰宅困難者に開放することを公表している大企業も多い。
 自治体が積極的に防災産業の育成に取り組んでいるケースもある。新潟県の「防災産業クラスター形成事業」は、2020年にスタートした新しい形のプロジェクトだ。2004年の新潟県中越地震や豪雨災害などを経験した新潟県は防災・減災ノウハウを蓄積しているが、従来は民間企業や研究団体、行政機関が個別に活動を行っていた背景がある。にいがた産業創造機構、長岡技術科学大学(技科大)や新潟大学の災害・復興科学研究所、中越防災安全推進機構など複数の組織がそれぞれのネットワークや豊富な知見・ノウハウなどの資源を生かし切れておらず、県全体としての情報発信力に欠けていた。「防災産業クラスター形成事業」では連携の体制を作り、プラットフォームを中心に産学官の相互作用・相乗効果を創出し、防災産業の拠点として発信力を強化する。1~2年目でネットワーク連携の推進母体を形成し、その後、ビジネスを生む環境づくりを目標に掲げる。
 新潟県産業労働部産業政策課・産業政策グループ主査の高本清彦氏は、「それぞれの組織の繋がりから地元企業等に呼びかけるなど、まずは取組に賛同し一緒に取り組む仲間となるプレイヤーを集めることからスタートしました。昨年9月に県と技科大で行ったキックオフセミナーを皮切りに、県と新潟大学による防災産業フォーラムなどワークショップやセミナーを積み重ねていきました。その結果、災害食ISO化など既にいくつかの事業がスタートしています。先月には長岡市内の企業10社が集まり、高齢者支援ビジネスの会社を設立しました。今後も様々なイベントを積み重ね、防災産業の育成に繋がればと思います」と語る。
 防災分野の製品は近年、裾野が広がっており、多くの企業が注力している。防災安全協会(東京都世田谷区)では、「防災・防疫製品大賞(c)2021」を制定した。「防災製品」、「防疫製品」、「非常用電源」、「復興支援」、「新製品開発・セット」、「先端技術・通信」の6部門へ全国74社140品目がエントリーし、先月、各部門の最優秀賞の表彰式が行われた。LED付平型モバイルバッテリー、非常用浄水器、防水シャッターなど、多くの製品が紹介され、社会の防災意識の高さを印象付けた。

防火機能付き防音カーテン
 各社様々な防災製品を開発しているが、既存の製品に防災機能を加えるケースもある。防音専門のピアリビング(福岡県宗像市)では、「防火機能付き防音カーテン」を新たに開発中だ。
 「会社に商談スペースがほしい」、「飲食店で周囲の音がうるさくて話ができない」といった相談が増え、従来の防音機能に加え、病院や公共施設、飲食店などでも有用な防火機能も備えたカーテンの販売を予定している。既存の防音・防火カーテンにはごわごわして重く扱いにくいという課題があったが、今回は3枚の遮音生地を重ね合わせ、柔らかく使用しやすいカーテンを開発。高い防音効果のほか、防火機能もあり、難燃糸を使用したポリエステルを素材とすることで防災認定を取得している。
 代表取締役の室水房子氏は、 「ほかにも、防災グッズとしても使用できる商品として様々な商品があります。折り畳み式の防音畳は、床に敷いてマットとして使用できますが、立てて使用することでパーテーションとしても使えます。避難場所などの利用も想定しています。素材のイグサは空気中のホルムアルデヒドを吸収し、臭いを消す効果もあり、その香りはリラックス効果もあります。軽く持ち運びも簡単で災害の多い昨今、災害時やキャンプなどでもお役にたてる商品と思います」と、日常から災害時まで幅広く使える利便性を強調する。
 ビルオーナーとしては、自然災害のほか、火災も想定し、安全策を講じておくことも重要だ。オフィス/店舗ビル、マンションなど複数棟所有する田丸ビル(東京都杉並区)の代表取締役・田丸賢一氏はオーナーとして「消防設備点検に立ち会うこと」を重要視している。特に強調するのが以下の点だという。
 「まず、飲食店テナント等が消防法知識のないまま、リフォーム等をすると、間取りによっては消防法違反になるケースもあるので、テナントでリフォームする際は図面の提出を義務付け、確認は自らしています。次に、『避難はしご』。入居するテナントには『勝手に処分しないこと』は書面で念押ししています。それから、『ネズミ』にも要注意です。ネズミによる火災報知設備の断線や停電というものを何度も経験しているからです。人の命に係わる消防設備だからこそ、私は繁殖力のあるネズミ一匹に敏感になっています。最後に、物件購入時も防災には特に注意しています。前所有者が消防設備点検をしていなかったことは結構な頻度で見られます。また『自動火災報知設備の更新』も視野に入れます。設置後20年が経過すれば更新が必要で、時には高額な費用が発生しますが、大規模修繕やエレベーター更新と異なり、盲点になりやすく、必ずシュミレーションするようにしています。オーナーがどんなに気をつけても、テナントが火災を起こすこともあります。ビル経営では常に火災の危険性があるということは何より忘れないようにしています」と、「防火設備」の重要性を訴える。オーナーの視点を忘れずにあらゆる災害に備えたい。


新潟県全体で進める防災産業クラスター
新潟県 産業労働部産業政策課 産業政策グループ 主査 高本清彦氏
 新潟県全体で進めている「防災産業クラスター」は防災産業の拠点を目指し、プラットフォームを立ち上げたばかりです。先日、長岡技術科学大学地域防災実践研究センターの開所式とプラットフォームの設立式を同時開催するなど、積極的な連携を進めています。良品計画(東京都豊島区)と連携した防災キャンプイベントを行うなど、県外の企業との取り組みも進めています。今後も、「防災」を共通のテーマとして、企業・団体等が手を取り合い、ビジネス創出や防災拠点としての発信機能の強化などの仕組みを構築していきたいと思います。

オーナー自ら消防設備点検に立ち会い
田丸ビル 代表取締役 田丸賢一氏
 ビルオーナーとしては、「消防設備点検にオーナー自ら立ち会うこと」に最も気をつけています。管理会社が立ち会うのと、オーナー自らが自分の目で確認しながら立ち会うのとでは、オーナーの防災に対する意識や見方が変わります。防災に気をつけるべきことの大部分は消防点検で指摘され、オーナーが繰り返し、避難訓練や消防設備点検に立ち会うことで、消火器の有効期間や設置場所を覚えたり、ビル経営における消防法の知識をはじめとして防災知識が身につくのです。

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