不動産トピックス

【今週号の最終面特集】地方の遊休不動産 我々の再生術

2021.03.08 11:49

官民一体の遊休不動産再生事例 保養所をコロナ禍でも機能する施設に
 地方都市に位置する未活用物件や保養所等を再び甦らせて収益に結びつけることは難しい。だがコロナ禍という現状を逆手にとって、郊外型のリゾートサテライトオフィスや1日1組限定の1棟宿泊施設に改修し、収益に繋げた事例が出てきた。

リゾートサテライトオフィス「ANCHOR」開設
 阪急阪神東宝グループのOS(大阪市北区、オーエス)は昨年11月、国内有数のリゾート地・和歌山県の南紀白浜にて新たなリゾートサテライトオフィスビル「ANCHOR(アンカー)」を開設した。
 「ANCHOR」はオーエスが和歌山県と白浜町から補助を受け、地域に根付く企業の誘致や地域の活性化を目的とした官民一体で行う事業であり、企業の保養所であった1965年竣工・3階建ての建物を大規模なリノベーションと耐震補強工事を施し、オフィス機能を有したビルへ再生させた取り組みでもある。2018年頃からプロジェクトチームを発足し、同事業の実現に向けて動き出した。土地・建物はオーエスが所有し、昨年1月~10月に掛けてリノベーションを実施。オフィス区画が7室と共用部はコワーキングスペースや会議室、シアタールーム、屋上のスカイテラス、ピクニックガーデン(菜園)等で構成されている。オフィス区画は既に4部屋内定しており、IT系を中心とした企業の入居が進んでいる。
 また同社が意識したのは単なるオフィスではなく、リフレッシュ×交流を促進するリゾートサテライトオフィス。南紀白浜の自然を身近に感じ、五感をフルに刺激して感度を高めて働く環境を意識。ライフ/ワークを続けるために、仕事の疲れを回復するだけではなく得た活力を発揮する場所を必要と捉え、「ANCHOR」ではON・OFFの循環を体感し、働く活力を整えていくような場所を目指すとのことだ。

BCP強化の観点から拠点分散・人材獲得に
 中でも食堂や大浴場を改修し、デスクワークや簡単なグループでの打ち合わせ等々に活用できるコワーキングスペース、映像・コンテンツの視聴が可能なシアタールームにリニューアルした。更にシアタールームは映像を活用したプレゼンテーションやオンラインでのセミナー講演にも対応可能。定期的なイベント開催による企業間・地域との交流も促しながら、あらゆる人々の出会いの場となるオフィスビルを造ったことで、地域との連携にも取り組むとしている。
 不動産事業部内 白浜ANCHOR管理担当の淀友樹氏は「南紀白浜は関西有数のリゾート地として知られており、東京からのアクセスも良い自然豊かな地域です。ここにオフィスを構えることでリフレッシュしながら業務に取り組むことができ、他企業との交流や地域の魅力に刺激を受けイノベーション創出にも繋がりやすいと考えています。都市部と違い『三密』を避けたオフィスとして、BCP強化の観点による拠点分散や人材獲得、社員の満足度と生産性を高めることが実現できるオフィスだと思います」と語った。
 コロナ禍でオフィスの在り方・働き方に変化が起きている今、ワーカーや企業のニーズに適したオフィスを提供できた稀有なケースである。

1日1組限定で宿泊施設を利用
 B・Cプロパティ(東京都渋谷区)はプロパティマネジメント、ビルメンテナンス業を行う、同社のグループ企業で、中古の共同住宅やビル、ホテル、簡易宿泊所や企業の保養所などを独自の視点とノウハウで再生し高稼働物件へと仕上げ、投資家へ販売および自社で保有運営するブッシュクロフィード(東京都渋谷区)は先月、神奈川県三浦市三崎町で宿泊施設「MOROISOSO」を開設。1日1組限定で宿泊施設1棟利用できるビジネスを始めた。
 「MOROISOSO」は、ブッシュクロフィードが昨年3月に取得。築50年経過したRC造の2階建て物件で、従前は一部上場企業の保養所であった。取得目的は当初、リゾート物件として再生後に売却を計画していた。だが新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、観光事業の在り方の変化から計画も変更。特に「密」を避ける対策が必須と考え、築古物件の機能性向上や内外装のデザイン変更も兼ねた、フルリノベーションを実施。保養所から1日1組限定のラグジュアリーグランピング施設へ生まれ変わった。
 物件は京急線「三崎口」駅から車で約20分、目の前に広がる相模湾の美しい水平線を一望しながら、BBQやプールサイドなど、非日常の時間を楽しむことが出来る、1階にリビング、2階に4部屋の居室を構え人数の多い家族でも宿泊できる構造だ。和室であった部屋を洋室に変え約34帖のリビングにした、リノベーションされた開放感のある宿泊施設には、海が見渡せるバスなどが完備されているほか、芝生とデッキが広がるテラスにはBBQや焚火、プールが備え付けられおり、ご家族や友人同士のプライベートキャンプ場としても利用でき、ペットとの宿泊も可能だ、建物の外観は白、囲いの壁は杉板で統一した。ちなみにグランドゥース(大阪市西区)が運営を行う。
 この施設の管理業務を行うB・Cプロパティの専務執行役員・鈴木庶夫氏は「他人との密は心配ですが、『高齢の祖父母と一緒に旅行がしたい』や『友達家族と一緒に旅行がしたい』等の潜在的な宿泊ニーズに応えることができます。現在もコロナの収束は見えず、観光需要は今後国内に集中することが予想され観光業が盛んであった既存の観光地及び地方都市へ観光客が足を運ぶキッカケや契機に繋がります」と指摘した。
 ブッシュクロフィードは、長期保有を目的としたプライベートホテルのビジネスモデルとしても確立できた。ワーケーションを意識した連泊ニーズにも対応でき、「プライベート」を強みとした不動産活用や宿泊ビジネスである。この1日1組限定の宿泊事業を他エリアで行うのか・波及させていくのかは、「MOROISOSO」の経過を見てからとのことだが、既に同社は手応えを感じているとのことだ。

遊休資産の活用と地元の雇用創出 新たな情報発信の場に
オーエス 不動産事業部内 白浜ANCHOR管理担当 淀友樹氏
 「ANCHOR」の開設は、地域が抱える課題解決策にもなります。例えば遊休資産の活用。今回のリノベーションと同じく、今後の活用に課題を抱える不動産がオフィスとして新たな価値を持つこととなれば、地元の雇用創出など地域活性化にも寄与します。都心から同地に企業が移転してくれば、地元企業とのコラボレーションや新規ビジネスの創出にも期待が持てるでしょう。ANCHORを拠点に「地域×企業」のコミュニティや情報発信の場が生まれ、今後新たな動きが構築されることに注目です。ちなみに都市部の企業や他エリアに拠点を構える企業は、現地へ内覧に行かなくても「オーエス ANCHOR」のHPから360度で施設内のオンライン見学が可能です。気になった人は見学してみてはいかがでしょうか。

市の条例に沿って用途変更 宿泊施設は約45年ぶり
B・Cプロパティ 専務執行役員 鈴木庶夫氏
 今回の再生事業及び1日1組限定の1棟宿泊モデルは、単なる自社グループの再生事業ではなく、地元・三崎町の活性化や観光収益確保の一躍も担う新たな取り組みです。そもそも三浦市の条例に沿って用途変更された宿泊施設は約40年ぶり。行政と足並みを揃えつつ、街へ来街者を誘い地方都市の再生に繋げるビジネスです。昨今は京浜急行電鉄グループで、三崎市及び三崎町を堪能できるプランを拡充させる、また当社も周辺マップや店舗情報などを案内用のHPに記載するなど、長期利用にも楽しめる環境が整ってきました。

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