不動産トピックス

不動産ソリューションフェア人気セミナー紙上再現

2015.12.28 11:33

テーマ・不動産オーナーからはじまる「まちづくり」とビル再生

ビルを所有しつづけることを選択した時にオーナーはどのような戦略を持つべきか
コンセプトの設定と地域を巻き込むことで集客力のあるビルに
刻一刻と変化する市況のニーズを掴むことが重要

 もはや待っているだけでは埋まることはなく、満室になっても地域に貢献できているかはわからない。オーナー自ら仕掛けを作ったとき、経営と地域貢献は両立できる。今回のパネルディスカッション再現ではそのようなことを意識する新時代のオーナー達が語る新しいビル経営の方法論だ。

ビルを再生することが街に生かされるために
横山 ビルを再生するだけだと様々な事例があるかとは思いますが、その後、まちづくりに携わるとなると地主さんが含まれてくると思います。このディスカッションではそこを考えていらっしゃるオーナー様をご紹介させていただければと思います。リフォームとリノベーションの違いについて、リフォームは「老築化した建物を新築の状態に戻すこと」、リノベーションは「既存の建物に大規模な工事を行うことで、新築の状態よりも性能や価値を高めること」を言います。ただ現実としてオーナーが直面している問題は、リフォームをしたからといって家賃は上がらないということです。なぜでしょうか。たとえば新築に近い状態に戻すといっても、中古の状態からリフォーム会社が凄くきれいにしてくれました。しかし業者にとっては空室が埋まることが目標なので、家賃を下げることを勧めてきます。ただ、そのように言ってしまっては投資ビジネスにはなりません。そこでリノベーションという価値観を我々はもう少し研究したいと考えています。つまり中古住宅を現代のライフスタイルにあった住まいに蘇らせることです。機能・価値の再生のための改修、その家での暮らし全体に対応した包括的な改修を行うこと。ここを先駆けて行った私たちが今回、3つの事例を提示し、オーナー側にも普及させていきたいと考えております。私もビルオーナーですが、3つの選択肢があると思います。大規模修繕と、建替え、もしくは売却することです。そのなかで今回、私たちがお話するのは大規模修繕を選択した後の経営について、お話していきたいと思います。テーマは「リノベーション後の経営について」です。それでは各パネリストに自己紹介をしていただきたいと思います。
横山幸子 自己紹介も兼ねて私のリノベーション事例とまちづくりについて紹介させていただきます。私はもともと証券会社や外資系のIT企業に勤めまして、結婚を機に不動産オーナーを家業とする今の家に嫁ぎまして、もともと東京におりました。2年半前に夫の転勤で名古屋に転居しまして、本格的に家業を継ぐこととなり現在に至ります。私自身、自社物件をオーナー目線から「コンセプトのある物件」とするためのリノベーションを行いました。名古屋のある住宅地に7階建の物件を自社で所有しておりまして、1階、2階がテナント、3階~7階が住居フロアとなっております。2階部分が200坪ほどあるのですが、じつはこの部分は2年ほどテナントが埋まらずに苦戦しておりました。オーナーとしてはかなり苦しい状況で仲介会社さんにもテナントを埋めるようにお願いしていたのですが、家賃の減額や広告を打つことを勧められるばかりでした。そのようななかで「コンセプトのある物件」にすることで、自ら再建しようと考えまして、3世代をテーマにした「多世代型テーマ施設」を2階のテナントフロアに入れまして、昨年の5月にオープンいたしました。この施設が様々なメディアから取り上げていただいておりまして、先日、TBS系列のCBCテレビで特集を組んでいただきました。
横山 この事例は名古屋だけでなく様々なエリアをつないでいき、オーナー同士の情報交換の場をつくっていきたい、と考えております。
安達 私はもともとビルオーナーだったわけではなく、東京の大学を卒業した後に広告会社を起業いたしました。そこから自社ビルをほしいということになり、平成21年に取得しました。昭和42年築で旧耐震の6階建のビルなのですが、両面採光となっておりまして、非常に明るく、また隣地などが老朽化しているものなので、建替えることを視野に購入いたしました。この周辺ですと、ウナギの寝床みたいな間口が狭いペンシルビルが多く、採光性も悪いものが多いので、良いビルだなと思いました。建替えを視野に購入しておりますので、銀行にも8年のローンを組みまして、既に繰り上げ返済で完済いたしました。そのような計画で取得して以後、このビルを8年間利用するなかで、いかに賃料を高く設定できるかを考えました。現在は自社で1階~3階を使用しておりまして、4階~6階はテナント様に入居して頂いておりますが、取得当時は様相が違いました。取得してから1カ月ほどかけてリノベーションを行ったのですが、1階~4階を自社で使い、5階、6階はレジデンスとなっていました。このレジデンス部分が、エリアのニーズと用途にギャップがあると感じまして、事務所にコンバージョンしました。内装も全て更新し、また水回りの位置も多少移動するとともに、トイレも男女別、OAフロア化、またエレベーターを各階不停止、サインなどの作成も行いました。最初に取得した際に仲介会社を通して想定賃料を出していただきました。その金額が年間で1580万だったのですが、リノベーションを行いまして自社で使用しているフロアを含めて算出したところ、2277万円となりました。ちなみにリノベーションの費用は約3700万円ほどでした。当社の特殊事例とはなりますが、このリノベーションを完了した期は非常に利益が出ておりましたので税理士さんとも相談をいたしまして、即時償却を行い節税効果も出ました。
横山 まさに「リノベーション=節税」という考えもありだと思います。ビルオーナーとして税務効果を考えた投資を行うことは当然だと思います。節税として即時償却できる部分と、資産として計上できる部分、両面を考えてリノベーションをすることがキャッシュフローを考える上で重要だと思います。
佐藤 本日紹介するのは代官山で自社で運営しているテナントビル「SodaCCo」というビルになります。立地としては代官山から八幡通りを並木橋方面に歩いていただいて8分、渋谷から12分程度という場所です。この場所はオーセンティックレジデンシャルエリア、昔から、古くからの高級住宅地に加えて、「ヒルサイドテラス」や「代官山アドレス」、最近ですと「T―site」に代表される新興商業エリアとの境目となっております。ここに平成25年10月に前オーナーがハッピーリタイアさせた建物を取得いたしまして、以前は美容・化粧品会社の本社ビルとして使用されていました。バブル時代における高級オフィスという造りになっていましたが、築年数の経過とともに所々で経年劣化が出ているものでした。この建物の隣地が我々の所有でございまして、後々の資産価値を向上させたいと考えました。すでに築年数が40年となっているビルでしたが、あと20年~30年は使えるビルにしようということで、私たちを中心にしてブルースタジオ様などと共同でリノベーションを行いました。そこでできたコンセプトが「子どもとクリエイターが育つみんなのビル」というものでございます。子どもとクリエイターの双方が似ている点は好奇心と創造力です。この子どもとクリエイターを我々のターゲットとしまして、瞬間的に賃料を上げることに執着するのではなく、一緒に育っていけるような長い目で投資していこうという考えに基づいております。建物の概要は6階建でございまして、1階~3階に子ども向けのテナントであったり、「スタジオ」と呼んでいますが地域で使えるコミュティスペース、また「ポケットパーク」といういわゆる共用部、庭を公開しております。2階、3階に子ども向けのテナント様が入居し、4階~6階は「co―lab」というクリエイターのためのシェアオフィスを入れております。もともとの狙いはクリエイターを中心に据えて、テナント・地域・子どもたちとのシナジー、それが我々であれば賃料に跳ね返るようなことをコンセプトに置いております。施工は平成26年8月から全てをスケルトンにした上で始めました。建物の耐震基準も満たしていなかったので、耐震工事も行いました。デザインはブルースタジオにシックなものにしていただきました。そこにクリエイターや子どもたちにリノベーション後のときに色をつけていただいて、中のテナントのカラーが見えればいいなと考えておりました。3月にオープンしましたが、オープニングパーティにも300人以上が来場してくださいまして、家族連れなどの方も多くいらっしゃいました。ありがたいことに今年のグッドデザイン賞を受賞することもできまして、稼働状況もテナント区画の10区画はオープン時点で満室、シェアオフィスも47戸中46戸、コミュニティスペースである「スタジオ」部分も10日稼働を目標にして現在8日稼働となっております。投資的な話をしますと、利回りは表面で7・25、NOIで4・27、坪単価は全て均すと1万6000円くらい、我々にとっては事業目線ではこの状態を20年、30年続けていけることを目指しております。
横山 ありがとうございます。ちなみに総工費はどれくらいだったのですか。
佐藤 総工費は土地購入までを入れると10億を超えております。
横山 次のポイントはおそらく「ここが問題だった」、しかし「こう改善してまちづくりに貢献してきた」というところになると思います。その点をお聞きしていきたいと思います。
横山幸子 さきほど紹介いたしました名古屋の7階建のビルの2階部分「LDK覚王山」ですが、もともとはオフィステナントだった部分です。そこをコミュニティ施設にリノベーションしたのですが、割とがらんどうな感じでした。ではそれをどのようにして改善していったのかをお話したいと思います。去年の5月のオープンから今年8月までの成果をお話させていただければと思います。施工は先ほどの佐藤さんと同様、ブルースタジオに入っていただきました。右フロアにはブックカフェが入っておりまして、ブックカフェ付の賃貸マンションとして3階からは住居フロアとなっております。同ビルは5年前に購入した物件となりますが、年々家賃相場が下がっており、前述しましたようにテナントがつかないことがございました。そこに「LDK覚王山」を開放したことで、結果としてはマンションの家賃が当初5万4000円~5万9000円だったのですが、だいたい6万3000円~6万8000円、最高家賃7万5000円、前年度比約15%引き上げることができました。坪単価に関しても前年度比で、高いところでは約3倍にまで引き上げることができました。なぜ「LDK覚王山」をいれることによって資産価値の引き上げに成功したかと言いますと、7つの仕組みを取り入れていることが大きな要因となっていると思います。これは当社が運営しております「不動産オーナー経営学院(REIBS)」という学校内の授業、「タウンマネジメント論」で学んでいることにもなるのですが、まず(1)広告宣伝です。これはメディアを巻き込んで物件自体をメディア化していこうということです。(2)がイベントで、物件が人で賑わって集客力があるということを示していくためにイベントを開催していくこと。(3)は環境演出をしていくということ、例えば植栽を置いたりすることです。(4)としては制作物や設置物の配置、これに関しては近隣企業やスクールなどのイベントや案内をLDKのなかに入れることによって、相互の宣伝を行っております。(5)がサービス・ホスピタリティとして、カフェのほうでは「3世代」というコンセプトを基にしてターゲット顧客に対するサービスも行っております。(6)コミュニティで、物件の愛着と帰属意識を高めようということで、地域を巻き込んだ物件運営を行っていくことになります。最後に(7)として物件がどのような状態にあるかということを知るための市場調査は欠かせないものと考えておりまして、周辺エリアはミドルアッパー層が集う地域でしたので、そのような方々をターゲットにしております。また地元の企業の方々にご協力をいただきまして、子どもたちが職業体験できるイベントを開催いたしました。この日は1日で400名ほどの方がお越しいただく大型イベントとなりました。また空きスペースを開放しまして、展示や展覧会の場所として開放しております。1カ月ほどでございますが、新鋭のアーティストや新規開店したショップなどが展覧会などを開催していただいております。私がこの施設を開業したのは社会課題を感じたからでもありまして、現在2歳の子どもを育てておりますが、なかなか現代社会が育児環境の不備や女性の社会進出の遅れ、世代間の分断などがあるように感じました。そういった社会課題を見た時に、不動産オーナーとしての使命は単なる大家ではなくて、地域活性化やまちづくりを担っていかなければならないと考えるようになりました。私たちオーナーがまちづくりに対して何ができるかを考えたときに、現代の社会問題を解決し持続可能な不動産経営をしていこうと今回の施設の開設に至りました。
横山 先日は河村たかし市長もお越しいただきまして、行政からも関心が高くなっております。地方の物件は特に空き家が多く、そしてソフトも集まりません。お金をかけて工事しても人が来なければただの空ビルの状況になってしまうので、そうならないためにも街の発展のためにはソフトコンテンツが重要なのだな、と私自身も感じました。
安達 もともと広告業だったのですが6年ほど前に東京の青梅市にあるホテルを取得いたしました。当然ホテルの経営は初めてでしたが、様々な研究をいたしまして、内外装のリノベーション、1階の空のスペースだったものをきれいにしたりするなどして、もともと稼働率37%だったものをオープンから1年半で95%にまで回復することができました。これは今に至るまで95%を保っております。経常利益も取得した当初は年間1400万円だったのですが、1年半で4900万円まで上がりました。良い時で5000万前後で着ております。そこから私も横展開を考えるようになりまして、次に湯布院で取得しました。ここは非常に広い老舗の旅館でした。施設更新が滞って稼働率が下がっていたのですが、ランドスケープをデザインして頂き様々な更新を行っておりまして、現在再生中ですが、順調に稼働率を上げております。他にも東京で銀座と立川、先ほどの青梅、それに加えて栃木県の那須塩原、湯布院と5施設を運営しておりました。これまでは既存のホテルを取得してリノベーションをかけて再生してきたのですが、現在、既存のホテルの物件価格は非常に高騰しております。そこで考え方を変えまして、今は新築にシフトチェンジをいたしました。来年の4月に新富町で第1号が竣工いたしますが、ここで新しいブランドを立ち上げていこうと考えております。後楽園に先月用地を取得いたしまして、こちらが第2号となりまして来年の4月に着工、再来年の4月に竣工いたします。今、インバウンドが非常に増加しておりましてホテル不足が深刻化しております。通常、ホテルオペレーターは100室以上ないとオペレーションできないとなっていますが、当社はもともとの青梅は43室でございます。40室~50室のホテルでも省力オペレーションで利益を上げることができます。なので、延床面積250坪ほどとれれば新築でも行っていこうと現在は考えております。最近では有効活用についての相談もしばしば受けます。オフィス・レジデンスに比べて当社ではかなり良い値段を出させていただいているのですが、これからそういう選択肢もあるのかなと考えております。
横山 皆様にとってみるとホテルという見方はまだなじみが薄いと思います。賃貸経営はほとんどオフィス、レジデンス、倉庫になっていると思います。ただ研究してますと、30年くらいしますとエリアのニーズはかなり変わります。たとえばマンション街であったところで商業地区が発展してきた、と。そうなればもともと住居だったところを商業に変える。そのような不動産経営が必要になってくるのではないか、と。そのひとつにホテルがあるのです。ただそれも長く続くというよりは、この時はこれが良いな、というニーズの見極めが必要だということでございます。
佐藤 リノベーション後、まちづくりにつながったことに関しまして、私の子どもが5歳になるのですが、学校教育だけでなくサードプレイスとして子どもと一緒に行ける場所があればいいな、という動機からスタートしております。ただ、そこの価値観に共有できる仲間を集めようと思い、ブルースタジオなどの仲間を集めました。その仲間が集まった時に、多様性を意識し、メンバーが偏らないようにしました。あとはハード的、ソフト的にもそうなのですが、境界をぼかすことを意識しまして、段差をなくして道路との境界をぼかしました。また「ポケットパーク」は入居者だけでなく外部の方にも入ることを普通にできるようにしています。ソフト的にはテナントと役割をぼかして、サービスなども担っています。そうすることでテナント様からクリスマスの装飾を行っていただいたりしています。またオーナーもテナントも無理をしないことも重要です。皆様の話に共通していますが、長く続けていくためには運営側が疲れないようにしています。最後に、同じような考えを持っているオーナーがいらっしゃいましたら、是非テナント様、近隣の方にこのような考えを広めていって、そこから協力の輪ができて、それがまちづくりに繋がっていくのではないかと思います。
横山 大手さんはしっかりとしたビルをつくりますが、それだけでは街は豊かにならないと思います。その街が豊かになっていくのは所有者ひとりひとりの力だと思います。最後に一言ずつお願いいたします。
横山幸子 私自身、後継者の3代目ですが、親の経営スタイルを受け継ぐだけでは未来がないと思い、自らのスタイルを構築するべく現在経営を行っております。「LDK覚王山」の施工費は1000万円ほどでございまして、省コストで限界に挑戦したいと考えました。これから同じ思いを持ったオーナーとつながっていきたいと考えております。
安達 ハッピーリタイアメントで物件を手放す方もいれば、そうでない方もおります。ニーズの変化は刻一刻と起こっておりますので、いろんな可能性を見ていってほしいなと思います。
佐藤 ビルオーナーの方は所有のビルで、小さなことでもいいので行って周囲に伝えていくことが、ひいてはまちづくり、そして不動産業界の変化にもつながっていくと思います。


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