不動産トピックス

クローズアップ 防水編

2012.09.03 17:40

 ビルの長寿命化を実現するために重要なのが「防水」だ。エントランスリニューアル等に比べてリーシング面で直接効果があるとは言い難いが、テナントの快適居住性を確保するためには避けては通れない。今回は従来型の防水工法から進化を遂げた新機軸を紹介する。

オリエンタル工芸社 エレベーター押ボタンを完全防水に
 近年、異常気象が原因で頻発しているゲリラ豪雨による冠水事故が多発し、エレベーターの故障問題が顕在化している。特に水害に弱いのは、エレベーターの押ボタンだ。通常、ボタンを押すと僅かながら隙間が生まれるが、この隙間から水が浸入し、制御盤や配線が使い物にならなくなる。地下フロアが冠水した場合、エレベーターが使用できなくなるのは非常に危険といえるだろう。
 そんな中、エレベーター部品の製造やメンテナンスを手がけるオリエンタル工芸社(東京都大田区)は、水の中でも使用できるエレベーター押ボタン「防水型ONボタン」を開発。同製品のサイズは奥行き32・5ミリ程度で、既存エレベーターにも導入可能だという。
 「偶然、3人の顧客に『水に濡れても問題のないボタンはできないのか』と質問されたことが開発のきっかけです。特殊なニーズのため、大量生産に向かず、コスト的な問題から誰も開発しなかったものを当社が実現しました」(同社代表取締役 杉本亨氏)
 同製品は押ボタンと接点部が完全にセパレートになっており、水に弱い電子基盤等は完全防水になっているのが特徴。ボタンを押すことで生じる隙間から水が浸入しても接点部は濡れないため、故障することはない。同社の実験で、水中でボタンを押しても問題なく稼働することが証明されている。
 「さらに、エレベーターは精密機械のため、実は湿気にも非常に弱い。1、2階が同一飲食店で、昇降機で料理を運ぶ場合、料理から生じる湯気で昇降機が故障するケースも多いです。当製品は湯気や湿気の侵入を防ぐことが可能です」(杉本氏)

多摩防水技研 低コスト・簡単施工・安定品質を実現 画期的防水工法
 一般的な塩ビ防水シートは、年月が過ぎるとシートに含まれた可塑剤が減少することなどで劣化が起こり、シートの収縮や柔軟性がなくなる等の問題点があった。そうした中、「10年もてばいい防水工事から100年以上建物をもたせる防水工事へ」をスローガンに掲げる、防水施工会社の多摩防水技研(東京都日野市)は、長期間防水効果を維持する画期的な工法「ウレタンリムシート防水工法」を開発・展開。さらに、超速硬化ウレタンスプレーも施工することで、最長30年保証を実現した。
 同工法の最大の特徴は、工場生産のウレタン樹脂シートを現場で貼り付けるだけで施工できる点にある。水切りやドレン等形状も前もってデザイン可能。塗膜防水の場合、職人の技術力によって塗りムラや硬化不良が発生し、均一的な施工が難しい。同工法では工場でシートを生産するため、品質が安定する。又、従来は1週間ほど必要だった施工期間がベランダのような小規模な場所では1日で完了する。さらに、可塑材や増量材を入れないウレタンを使用するため、経年劣化がきわめて少ない。
 「トップコートを使用しなくても10年間に1mm未満しか減少せず、4mm厚の防水層があれば理論上は30年以上防水効果がある。25年対応のトップコートも施工でき、25年経過した時点でシート表面を研磨してから塗り重ねることで、建築廃材になりません」(同社代表取締役 草場清則氏)
 現在はマンションや教育施設等で、短期施工希望客先の施工を行っている。品質面には問題はないが、イニシャルコストが従来工法より若干高いという課題がある。接着剤や型取りに関し、より技術力の高い提携先を探しており、低価格化を進めることで更なる普及を目指している。
 「職人さんたちが高齢化しています。工場なら年配者でも作業することは可能。職人不足の問題を解決する一助にも。」(草場氏)

日本防水工法開発協議会 防水層に侵入した水分を取り除く画期的システム
 防水・止水・防触・建築板金・塗装の6事業者で構成され、建物の長寿命化やリサイクル、省エネの実現に必要な各種工法・製品を研究開発する日本防水工法協議会(横浜市瀬谷区)は、屋上防水層内に侵入した湿気や熱を取り除く「ソーラーJET通気・脱気システム」を開発。今年7月には国土交通省新技術情報システム登録商品に認定された。
 「従来型の防水工法は外部からの水を防ぐのには適していますが、一旦防水層内に水が浸入してしまうと、水分を取り除く手段がない上、躯体から発生する湿気や結露を外部に排出することができず、かえって躯体コンクリートの傷みが早い。夏になると防水層の表面温度は80度を超えることもあり、過酷な環境下で機能が著しく低下し、本来の防水性能を発揮するのが難しくなります」(同協議会 事務局長 渡辺秀記氏)
 そうした背景を受けて誕生した同工法は、防水層の内部に通気層を設置。吸気筒と脱気筒を設置し、強制排気ファンを稼働させることで、防水層内の湿った空気や熱を外部に排出することが可能。太陽光パネルが動力源となるため、電気代も不要であり、躯体の温度を下げることによって空調費の削減できる。
 また、これまでの屋上防水材の多くは焼却すると有害物質が発生するため、埋め立て処理するしかなく、環境に悪かった。そのため、同協議会では焼却して熱エネルギーとして再利用できるFRPシートを用いた屋上防水工法を開発。2つの工法を導入すれば長寿命化と環境改善を実現することが可能となる。

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