週刊ビル経営・今週の注目記事

毎週月曜日更新

「建築ボリューム検討アプリ」を開発 生成AI活用し”仕事の合間を縫って” 無償で公開・機能拡張も利用者次第

2025.11.24 14:54

 山田工務店(福岡市博多区)の山田邦彦社長はこのほど、「MetriX-建築ボリューム検討アプリ-」を開発した。11月10日から公開し、同社の専用フォームから申請を送れば無償で利用することができる。建築・建設に興味のある学生から、中小の工務店の業務効率化など幅広い活用を想定する。山田社長は「機能の拡張や改善も利用者がオープンにできるようにしている。これをもとにより良いものにみんなで育てていってほしい」と期待を表した。
 山田工務店は1930年(昭和5年)に創業者の山田栄吉氏が立ち上げ、2代目の山田英司氏がRC賃貸マンション事業を確立。山田邦彦社長は3代目となる。大学・大学院で建築学を学び、約15年前に家業である同社に転職。それ以来、建築設計をひとりで担ってきた。
 家族経営など少人数で切り盛りする中小工務店にとって業務効率化は大きな課題となっている。「たとえばBIMについて米国では2000年代中盤から普及するが、国内の中小・零細においては少数にとどまっている」と山田社長は指摘する。「なぜ進まないのか」という疑問から、数年前に熊本大学大学院の博士課程へ入学。中小・零細企業がBIMを活用しきれていないことの分析・調査をテーマに研究を進めている。業界団体である全日本不動産協会福岡県本部理事・DX委員会委員長という立場から、BIMを含めたツールの積極的な活用を 促す。
 今回のアプリは「あくまで研究とは別」とは言うものの、業務効率化の手助けとなるように開発を行っている。専門知識がなくても直感的に操作できることが特徴で、敷地の間口・奥行、建ぺい率、容積率、前面道路の幅員といった基本的な情報を入力することで、その土地に建築可能な建物の最大ボリュームが3Dモデルとして自動生成される。用途地域を選択することで一般的な道路斜線勾配が設定されたり、任意で容積緩和なども反映することができる。

無償かつオープンに 同業者から学生まで
 生成された3DモデルはCADアプリ間で図面データを共有することのできるDXFファイルでダウンロードすることが可能だ。
 「敷地条件や法規制のパラメーターを変更すると瞬時に形状が反映され、条件に対応する形状の傾向を把握しやすい」、「その敷地に建てられる建物ボリュームの限界が何によって決められているのかをわかりやすく検討できる」。アプリを使用した専門家からのコメントで、肯定的な評価を集める。「無償ではなく有償にする考えはないのか」という問いに対して、山田社長は「有償にすることは全く考えていない」と答える。その理由はアプリ開発の目的を聞くと、わかりやすい。
 「私には研究者という顔もあるので、教育に役立ててほしいと思った。小学校の授業参観に行くと、将来の夢で『建築士』を挙げる子もいる。一方でこうしたツールは多くの月額料金がかかるのが一般的で、教育のなかでは触れにくい。子どもたちがアプリで気軽に建築の世界に触れることで、業界を志す人たちを増やしていきたいという思いがあった」
 実際、大学生がアプリを使ってみたところ「建ぺい率や道路斜線などの基本的なところが理解できた」と好評を得る。
 業務効率化ツールとしても役立てていく。山田社長は「たとえば営業の社員がお客様との商談でどのような建物をつくれるのかイメージを提示することができる」と活用例を示す。さらに利用した人たちがより使いやすいようにカスタマイズできるよう、オープンソースとした。
 「今回のアプリは完全ではないと思っています。たとえば二面道路対応や日影規制を組み込もうとしましたが、どうしても対応させることができなかった。多くの人が自由に使えてアプリもカスタマイズできるようにすることで、より使いやすい形にしていってほしいというのが、開発者としての思いです」
 アプリの公開と同時に、取り扱い説明書をPDFで配布しはじめた。加えて、グーグルのAIノート支援ツールである「Google NotebookLM」を活用。操作に関してわからないことをチャットで質問することで、わかりやすく要約して伝えてくれる。さらに利用者同士がさらなる改良にむけて議論することのできるフォーラムページも用意した。山田社長は「利用者がアプリを育てていってほしい」と期待を示す。
 山田社長は今回のアプリを開発するにあたって、グーグルの生成AI「Gemini」を活用した。AIに様々な指示を出して、HTMLでプログラミング。データ容量は「フロッピーディスク約1枚に収まるサイズ」、業務や研究の合間を縫いながら約2カ月で完成させたという。

開発にはAIを活用 約2ヵ月で完成
 山田社長は「AIをどのように活用していくかはもっと考えていくべきだ」と訴える。社会的に「AI」がトレンドとなり、「ChatGPT」や「Gemini」など生成AIも急速に社会生活のなかに浸透する。その一方で、業務効率化に向けての活用は手探りな面も多い。
 「AIとうまく付き合っていくことが必要だと思う。生成AIも適切なプロンプト(指示)を送らなければ、思ったような回答を得ることはできない。しかし、うまく活用することができれば今回のアプリのように、自社の業務効率化に適したプログラムをつくることも可能ではないか」
 これまで多くの労力や時間をかけてつくっていたものも、AIをうまく使うことで短期間で開発することが可能になっている。建設・不動産業界にとっての活用メニューはまだまだ多く隠れていそうだ。




週刊不動産経営編集部  YouTube