週刊ビル経営・今週の注目記事

毎週月曜日更新

【謹賀新年】ビルコンセプトに浮上する「健康」オフィス多様化でターゲット絞り込みも

2022.01.06 16:01

 2022年、寅年。株式市場の相場格言を調べると「寅千里を走り」。格言通りならば、上昇相場に乗っていく、とのこと。さて、不動産市況はどうだろうか。
 20年からのコロナ禍は不動産市況、ビル経営を考える上で転換点となっている。企業がオフィスに求めるニーズは多様化を続けた。2~6面で各社への取材記事を交えて詳論しているが、リモートワークの増加によって社員数×1人あたりの面積、では単純に割り出せなくなっている。それだけではない。オフィスづくりも多様化を続けた。「十社十様」との言葉も出ている。まだ顕在化していないものの、たとえば可動型のオフィス家具を多く取り入れて状況の変化に応じてオフィスを作り替えられる「アジャイルオフィス」や、企業の理念やイメージ、あるいはミッションなどを反映したオフィス内装にする事例も出てきている。
 デベロッパー側もオフィスビルでの体験の新しい提案を試みる。感染症対策の観点から抗菌・抗ウイルス仕様にしたり、非接触式エレベーターの導入なども見られた。あるいは、スマートロックなどのIoT企業と共同してビル内での移動を可能な限りでシームレス化も行われた。直近では、働く場所としてのオフィスにもその取り組みを広げている。直近でキーワードとなっているのは「健康」だ。「WELL認証」なども不動産業界でにわかに注目度を高めている。今後この分野をどれだけ深耕していくか、どれくらいのニーズを獲得していくことができるかは注目に値する。
 これらのオフィスに関する動きは、コロナ禍を経て出てきたニーズをくみ取ったうえで「ポストコロナ」へ向けて動き出したと見ることができよう。では、東京の大型オフィスビルの市況はどうだろうか。三鬼商事が発表している東京ビジネス地区の空室率は6・35%、平均賃料は2万686円とした(21年11月時点)。空室率の低下は、20年2月以来21カ月ぶりとなった。
 ただ市況が好転に転じていると見るのはまだ早そうだ。14面から特集している「東京オフィス市況」で詳論しているが、22年竣工の大型オフィスビルの成約状況は「二極化」の傾向を見せている。市況感については識者によって見方が若干分かれているものの、コロナ禍での不透明感から「見通しづらさ」は各氏からうかがえた。
 この状況に対して、中小ビルオーナーはどうか。12面からの特集では複数名から21年の振り返りと22年の展望を聞いている。各者各様の取り組みでこの難局を乗り切ろうとしているが、高木ビル・高木秀邦氏の「選ばれるビル」になるための試行錯誤が続いている。そのなかにはコワーキングスペースやシェアオフィスの開業や入居者・テナントとの関係性を重視するという意見も見られた。32面ではこれからのビル経営戦略について特集しているが、そのなかではテナント支援のひとつとして一歩踏み込んだ経営支援などを紹介している。ただこのような取り組みもビルの設備面がしっかりと維持されていればこそ。16面からは建物の設備管理にクローズアップした製品・サービスを紹介しているので、参照してほしい。
 さて、不動産業界の寅は「千里を走」りぬけることができるのだろうか。もはやコロナ前のような全体的な上昇気流は望めない。全体を背負う寅が不在である以上、個々のビルでターゲットのテナントや入居者のニーズを聞き取り実践していくことが肝要となる。

PAGE TOPへ