不動産トピックス

【11/10号・今週の最終面特集】供給棟数が増加 競争激化のコンパクトオフィス

2025.11.10 10:54

関電不動産開発 毎年複数棟の開発を視野
人材採用を後押しするビルに勝機
 基準階貸室面積が100坪未満のコンパクトオフィスビルが増えている。大規模ビルほど建築費は高くなく、リースアップ後の売却も買い手は多いため、スムーズに進む。コンパクトサイズでも共用ラウンジは必須となりつつあり、既存中小ビルにも影響は少なからずありそうだ。

首都圏での単独ビル開発 オフィスビルは3棟目
 関西電力グループの関電不動産開発(大阪市北区)は先月31日、東京都中央区日本橋茅場町で開発を進めてきた「関電不動産茅場町ビル」の竣工を発表。同日にはメディア向けに、竣工説明会および内覧会を開催した。
 関電不動産開発が首都圏で進めてきた単独でのオフィスビルの開発は、2022年5月竣工の「関電不動産八重洲ビル」、24年2月竣工の「関電不動産渋谷ビル」に続き3棟目。これまでの中規模オフィスビルとは違い、同社初のコンパクトオフィスビル。コンセプトは「DELIGHT(ディライト)“ワークスタイルに輝きとよろこびを”」。単なるオフィスの提供に留まらず、入居テナントのニーズへ確実に応えるとともに、日々進化するビジネスシーンに対応した先進性や快適性、安全性を備え持つ次世代型オフィスビルおよびオフィス空間を提供する。
 場所は東京メトロ日比谷線・東西線「茅場町」駅から徒歩1分、日本橋茅場町2丁目に建つ。規模はS造の地上9階建て。延床面積1760・47㎡。敷地面積263・56㎡。基準階貸室面積は189・58㎡(57・34坪)とコンパクトなことから、同地の中小企業だけでなくベンチャーやスタートアップ等もターゲットに見据える。オフィスは様々なニーズへ対応できるよう、複数のセットアッププランを用意。通常は什器のないスタンダードプラン(OAフロアやカーペット設置、天井はスケルトン)。要望に応じて執務スペースまで整えた「フルセットアップ」と、会議室などの間仕切りや什器のみ用意するハーフセットアップを用意した。双方のプランにもバリエーションを用意。意思決定にかかる負担の軽減と、希望に合った仕様・レイアウトを選択できる。移転にかかる費用や時間等の負担を抑えるため、まさにベンチャー・スタートアップには好ましいオフィスビルとなった。

共用スペースを充実 ラウンジや会議室用意
 オフィスのコンセプトは「“つながり”に味方する」。コミュニケーションを円滑に取るための様々な設備を設えることで、社員同士の交流やビジネスの創出、入居企業の成長・拡大にもつながる工夫を施している。例えば、1階の共用部。1階はテナント区画を設けず、共用ラウンジ、貸会議室、オールジェンダートイレなどを設置。特に共用ラウンジはテナントのサードプレイスオフィスとして機能。気分転換も兼ねたワークスペースやグループワークの場に、アフターファイブでのイベント利用、社内でのスポーツ観戦にも活用できる。共用の貸会議室もあるため、執務エリアに大きめの会議室を設ける必要はない。
 屋上にはルーフテラスを用意。デスクワークの環境を整えつつ、複数人で利用できる席を多めに確保した。水道なども用意することで、単なるグループワークだけでなく社内交流といった、多様な利用に応えることができる。屋上は2段で設備(下段に電気設備、上段に室外機)を配置することで、広めのスペースを確保。同サイズのオフィスビルでも屋上を広めに活用できる背景には、このような取り組みが生きている。
 環境に配慮したゼロカーボンビルでもある。高い断熱性能に加え、様々な環境配慮技術を採用。設計段階で年間の一次エネルギー消費量を50%以上削減した建築物に与えられる「ZEB Ready」認証および建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の最高ランク6つ星を取得した。またオール電化を採用し、消費する全電力に再生可能エネルギー由来の環境価値を付加した関西電力の「再エネECOプラン」を導入。結果、ビル全体のゼロカーボンを実現した。
 ビル鉄骨材の50%以上に、リサイクル資源を活用した電炉材を採用。これもCO2削減に寄与している。各階の軒天には、東京都多摩地域で生育した木材を使用しており、それ以外の箇所にも積極的に木材を利用。温もり・安らぎを与えるとともに、SDGsに貢献している。BCP対応としては、新耐震基準の1・25倍以上の高い耐震性能を確保。入居テナントには安心・安全な働く環境を提供できた。
 説明会では代表取締役社長の福本恵美氏が登壇。「新たに小規模ビル(コンパクトオフィスビル)開発については、毎年複数棟を視野に企画・開発を進めていく方針です。関西電力グループの事業シナジーを発揮できる大規模ビルや再開発事業、都心部においてはホテル開発にも積極的に取り組んでいきます。こうした首都圏への投資を拡大し、今後は当社の新規投資の半分を首都圏へ投入していきます」と述べた。2035年度までの業績目標は、売上高が約1800億円。利益は約500億円。総資産は36年3月末までに約1・1兆円を目指す。

共通項目は「つながり」社員の満足度を高める
 今年の5月15日に、阪急阪神不動産(大阪市北区)が手掛ける新築の中規模オフィスシリーズ「SUITE」の第1号物件「スイテ新御徒町」が竣工。同月末には旭化成ホームズ(東京都千代田区)が開発を進めてきた、コンパクトオフィスシリーズの第1号「ASOOM新橋」が竣工を迎えた。7月10日にはNTT都市開発(東京都千代田区)が展開するコンパクトオフィスシリーズ「owns」の第3弾、「owns八丁堀」が竣工。同じ7月末には日鉄興和不動産(東京都港区)が展開する「BIZCORE飯田橋」が竣工した。
 8月4日には西松建設(東京都港区)の都市型コンパクトオフィス「NCO浜松町」が竣工。9月末には三井物産グループの三井物産都市開発(東京都港区)が新しく始めた都市型コンパクトオフィス「WORKING FORT」の第1弾、「WORKING FORT東神田」が完成を迎えた。
 これでも直近で供給された一部物件を掲載したのみ。これら新規参入ブランドも含めたコンパクトオフィスビルの共通項目に、昨今は「つながり」が挙げられる。「関電不動産茅場町ビル」における、共用ラウンジやルーフテラスなどが該当する。テナントはこれら機能・設備を積極的に活用することで、社員同士に仲間意識が芽生え、密につながることで、社内・社員の充実度や満足度は上昇。社員が辞めない環境となり、既存社員の長期定着にもつながる。
 経営者の視点から見ると、これらオフィスビルに入居するだけで、昨今競争の激化している「人材採用」における課題は軽減される。一方オーナーから見れば、入居テナントの人材採用を後押しできるビル(オフィス)とPRすることで、差別化やリーシング力のアップ、新規成約賃料の値上げにもなる。今後のビル経営においては「つながり」が重要項目と思われる。


<物件概要>
●名称:関電不動産茅場町ビル
●住所:東京都中央区日本橋茅場町2-8-8
●延床面積:1760.47㎡
●敷地面積:263.56㎡
●基準階貸室面積:189.58㎡
●規模・規模:S造、地上9階
●竣工:2025年10月




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