不動産トピックス

【9/15号・今週の最終面特集】採用事例増加 セットアップオフィスの最新動向

2025.09.15 10:28

共有ラウンジがコミュニティ形成に寄与
フロアごとにデザインが異なる 多様化する価値観や働き方を意識
 昨今セットアップオフィスを採用しているオフィスビルが増加。順調に空室の早期解消や新規成約賃料を上げているかと思えば、意外とそうではない。上手くいくケースと、中々成約に結びつかないケースに分かれている。成功の裏には実績のある企業がいる。彼らと一緒に行うことが重要だ。

築古ビルをバリューアップ セットアップオフィス実施
 築古ビルの再生事業を行うLOOPLACE(東京都千代田区)は、西武不動産(東京都豊島区)が所有する「湯島太田ビル」のバリューアップを実施。6階と7階をセットアップオフィスとし、リーシングも行っている。
 「湯島太田ビル」は、1991年竣工のオフィスビル。SRC造の地上7階建て。延床面積は1683・34㎡。東京メトロ・都営地下鉄「本郷三丁目」駅から徒歩7分、東京メトロ「湯島」駅からは徒歩8分の文京区湯島2丁目に立地する。同ビルのバリューアップは、西武不動産が推進するバリューアッド事業の一環として実施された。西武グループでは2024年5月に発表した「西武グループ長期戦略2035」において、不動産事業を核とした成長戦略を描いており、不動産価値の最大化を推進。持続的成長を実現していくために資本効率性を追求し、保有前提のビジネスモデルから「保有とキャピタルリサイクルの両輪で成長させるビジネスモデル」へと転換した。この流れで今年2月に「湯島太田ビル」を取得。資産価値向上を目的としたバリューアップ事業の1つとして、積極的にPRしている。
 一方LOOPLACEは、マーケティングリサーチや設計施工、7月4日に開催した内覧会の運営も担当。西武不動産の依頼のもと、同社が展開する「gran+」シリーズで培った知見・ノウハウを生かして、築33年のオフィスビルに新たな付加価値を生み出した。ちなみに「gran+」シリーズは、LOOPLACEが物件取得から商品企画・設計・施工までをトータルで手掛ける企画物件のシリーズ。老朽化等が散見される不動産を高収益物件へ再生。ベンチャーやスタートアップ向けのクリエイティブオフィスとしてつくり、他物件と異なる特徴付けも行う。競争力のある商品(物件)として販売してきた。

6階にテナント専用共用ラウンジを新設
 今回のリニューアルは、住居用の6~7階を機能的なオフィス空間にコンバージョン。6階にはテナント専用の共用ラウンジを新設し、6階と7階の貸室はセットアップオフィスとした。同時にビル1階のエントランス部分のファサードや外壁もリニューアル。外壁は費用対効果を考慮し、建物全体ではなく意匠性の高い部分に限定して改修。エントランスのアプローチについては、床・壁・天井・照明などのデザインを視覚的な印象に刷新。植栽スペースにも手を加えた。テナントや入居者にとって、印象的かつ魅力的な空間へ生まれ変わった。
 6階の共用ラウンジは限られたスペースを有効活用するため、EVホールを取り払い、空間を最大限に生かしたレイアウトとした。1名の利用から最大6名までのグループ利用も想定し、ミーティングルームを設計。利用者同士の視覚が交差しにくい工夫も施した。ラウンジにはドリンクコーナーやパントリーを設置。中央には大きな植物什器を置くことで、緩やかに視線を遮るパーティションとしての役割と、自然とのつながりを感じられるデザインの両立ができた。
 6階の専有オフィスは97・3㎡(29・43坪)。個別テーブルとビッグテーブルを配置し、入居後の拡張性を確保。収納什器や複合機、追加デスクなどを自由に配置できる。個別ブースは軽量鉄骨で壁を設け、ラボのようなインテリアに仕上げた。一方、7階の専有オフィスは106・8㎡(32・30坪)。中央にビッグテーブルを配置し、囲うように個別デスクを設置。アイキャッチな吊棚にはワークツールだけでなく、企業カラーを表現できる。またディスプレイ等も飾ることができる。
 管理・運営担当の西武不動産プロパティマネジメント(東京都豊島区)賃貸事業部 直営・ビルPMチーム リーダーの山内幹久氏は「東京大学の近くとあって、東大発のベンチャー・スタートアップや本郷・湯島などにゆかりのある地元企業をターゲットに、リーシングを行っています。問い合わせ等の反響は良く、今回のバリューアッドの手応えも感じています」と語った。
 西武不動産は今後も継続して、バリューアッド事業を積極的に進めていく姿勢だ。

「VORT新橋一丁目」取得 4~6階はセットアップ
 「区分所有オフィス」を主軸に資産形成コンサルティングを行っているボルテックス(東京都千代田区)は先月26日、「VORT新橋一丁目(仮称)」を取得した。
 ボルテックスは東京都心部の好立地を対象に、中規模のオフィスビルをフロアごとに分譲した商品「区分所有オフィス」を提供してきた。2013年5月竣工の「VORT東陽町ビル」から始まり、以来順調に棟数を増やしてきた。現在は都内だけでなく政令指定都市でも展開。収益性・流動性に優れた物件は最上位ブランド「maxim」として展開している。直近では東京メトロおよび東急田園都市線・東横線「渋谷」駅から徒歩6分の場所で、自社で開発を手掛けた新築ビル「VORT渋谷east2.」が誕生。VORTシリーズとしては200棟を突破した。
 新たに取得した「VORT新橋一丁目(仮称)」は、昨年12月末竣工の新築ビル。S造の地上14階建て。1階は店舗、空中階はオフィスの複合物件。東京メトロ銀座線「新橋」駅から徒歩2分、JR「新橋」駅からは徒歩3分の好立地に建つ。延床面積は1988・61㎡。敷地面積は261・04㎡。汐留エリアや虎ノ門界隈も徒歩圏内にあり、都内各所への移動がスムーズ。通勤の利便性に加えて、来客対応や営業拠点のオフィスにも適している。また新橋は「昼はオフィスワーカー、夜は飲食客」という集客力を持つ。近隣で進行中の再開発なども踏まえると、終日多様な人々が訪れる都市型交流拠点の形成にも期待されている。
 2~13階のオフィスは柱の少ない設計により、自由度の高いレイアウトが可能。L字型の専有面積は132・52㎡(40・08坪)。特に4~6階は入居者がすぐに業務を開始できるよう、内装を施したセットアップオフィス。3フロアの内装はそれぞれ趣向が異なり、多様化する価値観や働き方に応えることを意識した。木目調を多く使用したオフィスは、温かみや木の肌触りが感じる空間に。一方、木目調は使用しつつもスタイリッシュなデザインのオフィスも用意した。2階と5階は成約済みで、その他フロアも早期の成約が期待される。
 1階の専有面積は57・49㎡(17・39坪)。近隣で営業する店舗がさらに席数や営業スペースを増やすために、分室のような形で出店。ランチタイムやアフターファイブには本店と共に賑わう様子が見られる。ちなみに同物件は環境認証制度「ZEB Ready」を取得。環境配慮の物件を探すテナントにも適している。リーシングの後は、各フロアを「区分所有オフィス」として販売する計画だ。




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