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大手住宅メーカーの本社移転が大ブーム 西新宿で活発化 推定坪賃料1万円台のケースも 積水、大和、旭化成、ニッセキ等

1996.01.01 17:06

 大型移転が相次いだ昨年の業界だが、後半にかけて目立ったのは大手住宅メーカーの事務所移転の動き。業界トップの積水ハウスをはじめ、幾つもの企業が賃料の割安感を背景に都内のビルを移り変わった。自ら賃貸アパートの供給元となっているだけに、さすが機を見るに敏との声もあるが、一方でひと足早く移転を行ったがために、賃料的には今では割安感も消えてしまったというメーカーもある。そんな各社の悲喜こもごも・・・。
積水ハ、マインズ6フロアに統合
 師走のせわしさの中で、5ヵ所約1000人近くの社員が引越し作業に追いまくられていたのは、住宅業界トップ企業の積水ハウスグループ。
 同社ではこのほど、分散していた東京・西新宿界隈のオフィスを、新宿南口に新たに誕生した高層ビル「新宿マインズタワー」に統合移転。同時に、グループの賃貸住宅などの管理会社である積和不動産も移転した。
 「これまで、エルタワーに支社と営業の一部、Kビルに設計部と特建部、安田ビルには都市問題部と法人部と、合計3ヵ所に分かれていましたが、この10月末から11月上旬にかけて順次、マインズタワーに引越ししました。現在、19階~24階の6フロア600坪に約650名が入っていますが、これによって空いたKビルには、やはり2ヵ所に分散していたグループの積和不動産がはいりました。おかげ様でようやくなんとかおちついたばかりです」(広報課長・三善氏)。
 同じく西新宿のすぐ近所では、旭化成工業住宅事業部が、6月に移転している。昭和47年から入居、5フロアを使っていた明宝ビルから、新設オープンした工学院大学のエステックビルに移転。現在、5フロアを使用している。
 この他にも、ナショナル住宅産業が、大阪・千里で借りているビルの買収を発表したかと思えば、大和ハウス工業も、東京・日本橋のテナントビルを近く出払い、飯田橋周辺にJRグループと共同で自社ビルを建築する方向で動き出している、といった具合。
 まさに住宅業界ではここに来て一気に社屋大移動がまきおこっている感じだ。

坪賃料がピークの3分の1に
 こうした各社の動きの背景にあるのは、言わずもがな、地価の下落とそれに伴う家賃相場の急落だ。一昔前には考えられないような安い家賃で、ピカピカのきれいなオフィスに入れるようになったのである。”この機を逃す手はない”とばかりに、一斉に、住み替え出したわけだ。
 たとえば、積水ハウスの場合、以前借りていた中で一番家賃の高かったエルタワーで、入居時の家賃は坪5万5000円。ところが、今回入ったマインズタワーは、なんと1万8000円(推定)の安さだと言われている。仮にその通りなら3分の1だから、この師走の忙しい最中にでも引越したくなるのはよくわかる。
 旭化成の場合「以前のビルは電気容量などが旧タイプでコンピュータ導入に全く対応できなかった。家賃自体よりこうしたビルのグレードの問題のほうが移転の動機です」(広報部長代理・高見澤正氏)と言うが、仮に同レベルの家賃だとしても、築20年以上のビルから新築オフィスに移れたらかなりの得だろう。
 もちろん中にはこんな話もある。「昨年秋、日本橋の3ヵ所の古いビルから、サッポロビールがオーナーの恵比寿ガーデンプレイスに引越し当初は坪2万円台で借りたいといったら随分あちこちでほめられましたが、最近は駅のそばに1万5000円とかいう新築ビルが登場してしまい、あまり自慢話にならなくなってしまった」(ニッセキハウス工業・堀内裕二常務)
 とはいえ、さすがはプロの住宅メーカーだけあって、家賃相場の動向をすばやくキャッチし、コスト削減のためにサッサと引越してしまう機敏さには脱帽させられる。もっとも、住宅メーカーの勧めでアパートを建ててきた世の家主にしてみれば「そんなに相場の変動を読めていたならウチにも早く教えてくれたらよかったのに・・・」と皮肉のひとつも言いたい気分では?




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