不動産トピックス
【4/21号・今週の最終面特集】先を見据えたリニューアル 環境配慮型のビル実現

2025.04.14 10:54
「春日部セントラルビル」テナント入居の”居ながら施工” 「ZEB Ready」認証取得
BELSは最高評価の6つ星獲得 グループ会社は「ZEBリーディング・オーナー」
快適な室内環境を実現しながら消費エネルギーをゼロにすることを目指した建物認証「ZEB(ゼブ/ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」。ここ数年でZEB取得のビルが増えており、テナントも環境配慮型のビルに入居を求めるようになってきた。この流れが中小規模のビルにも波及。実績はまだ少ないが、年々環境配慮型ビルの需要が伸びているため、オーナーは早めの対処が必要になってきた。
長期的な運用を視野に リニューアルを選択
首都圏の駅前や好立地を中心に、不動産開発やビル賃貸業を手掛ける永和不動産(東京都千代田区)。同社のグループ会社が保有する「春日部セントラルビル」が、昨年11月14日付で「ZEB Ready」認証を取得した。
1986年に竣工した同ビルは、東武伊勢崎線・東武野田線「春日部」駅から徒歩3分の埼玉県春日部市中央1丁目に位置する。RC造・地上6階建て、延床面積5061・27㎡、敷地面積1166・67㎡の店舗・オフィス複合ビルで、同エリアでは希少なオフィス需要に応えてきた。
今回「ZEB Ready」認証を取得した背景には、近年の建築費高騰がある。資材費や施工費の上昇により、新築は都心の好立地ならともかく、郊外や地方都市では採算が合わず、年々建替えが困難になっているのが現状だ。しかし、何も手を打たなければ、建物の陳腐化・劣化が進み、資産価値が低下してしまう。
こうした課題を踏まえ、永和不動産は「建替えをせずに資産価値を維持し、長期的な運用を可能にするリニューアル」を選択した。さらに、近年注目が高まるCO2削減・省エネ・環境負荷低減といったSDGsの視点を取り入れることで、企業(テナント)から選ばれ続けるビルへと進化させる方針だ。
今回のリニューアル工事は、安藤・間(東京都港区)が協力し、環境配慮型の改修を推進した。永和不動産と安藤・間は協力のもと「春日部セントラルビル」の調査を開始。その結果、空調設備の更新と照明のLED化を実施することで、省エネを実現しながら「ZEB Ready」認証の取得が可能であることが判明した。「ZEB Ready」は、既存設備を高効率な省エネ機器に更新することで一次エネルギー消費量を50%以上削減した建物に与えられる環境認証制度である。
光熱費高騰を考えれば改修の効果は大きい
安藤・間 LCS事業本部の青山三男氏は、「既存の技術を組み合わせることで、新築だけでなく既存ビルでもZEB認証を取得できます。イニシャルコストは多少かかりますが、今後の光熱費高騰を考えれば改修の効果は大きい。特に、カーボンニュートラルの観点からも、環境認証制度を活用した改修は、対応の遅れが指摘される既存ビルにとって重要な選択肢です」と述べた。
永和不動産 管理部の江頭裕昭課長代理は「今回の空調更新は、竣工以来2回目の実施です。既存の機械室据え置きのパッケージ型空調機から、高効率・長寿命なビルマルチ型空調機へ刷新しました。従来はフロア単位での一括管理でしたが、新たに1フロア16台の天井カセット型空調機を導入し、個別に制御・管理できるようになりました。これにより、場所ごとの温度調整が可能となり、就業者の快適性も向上しました」と説明。さらに、ビル内の照明をすべてLEDに変更。省エネ効果を高めると同時に、明るく快適な執務空間を実現した。
合同説明会も開催 改修の意義を共有
今回のリニューアル工事は、2025年1月から5月末までの約5カ月間にわたり実施。調査開始からの期間を含めると約2年を要した。その大きな要因は、テナントが入居した状態での「居ながら施工」。通常、空調更新や照明のLED化はテナントの入れ替え時に行うことが多い。しかし今回は、営業中のテナントに配慮しながらの施工となったため、施工時間や工程の調整が不可欠だった。永和不動産では、リニューアル計画決定後、テナントを1社ずつ直接訪問し説明。加えて、合同説明会も開催し、改修の意義をテナントと共有した。
また西村美和子係長は、「テナントとの日程調整や確認作業に時間がかかりました。オフィスのほか、飲食店や学習塾も入居しており、それぞれ定休日が異なります。また、一部のテナントでは社員立ち会いが必要なケースもありました。ビル管理会社とも連携し、慎重に調整しながら工事を進めました。施工は2フロアずつ順次進行し、5月末に完了予定です」と振り返った。
今回の「ZEB Ready」認証取得は、永和不動産グループとして初。さらに、「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」においても最高評価の6つ星を獲得した。またグループ会社が「ZEBリーディング・オーナー」となり、実績をつくることもできた。今後はこの経験を生かし、他の保有ビルへの展開を進める方針だ。
永和不動産 管理部の高橋智之シニアマネジャーは、「省エネ企画では、通常、設備機器の能力をダウンサイジングし現場に合わせて最適化を図ることが多いですが、今回はむしろ設備能力を向上させることができた稀有な事例となりました。またリニューアルでは東京電力の補助金を活用。その他の補助金・助成金も検討しましたが、施工スケジュールの関係で一部断念しました。今回はテナントへの配慮を最優先にしながらも、予定された工期内で実施することができました。これらの経験を今後のビルZEB化に生かしていきたい」と語った。
永和不動産グループは、今回の成功事例をもとに、さらなる環境配慮型リニューアルを推進し「選ばれ続けるビル」を目指していく。
改修需要に応えるPM会社
建築費が高騰しているとはいえ、緩やかに環境認証制度取得を目的とした改修・リニューアルが増えている。しかし昨今の人手不足から、ゼネコンが改修・リニューアルの依頼を受けることが難しくなってきた。一方この需要に応えているのが工事専門の部署を抱えるPM会社。検討中のオーナーはビル管理会社に確認してはいかがか。
<物件概要>
●ビル名:春日部セントラルビル
●所在地:埼玉県春日部市中央1-52-1
●延床面積:5061.27㎡
●敷地面積:1166.67㎡
●規模:地上6階塔屋1階
●用途:店舗、オフィス
●竣工:1986年11月
●ZEB化工事竣工:2025年5月予定